28.棲家を奪われた精霊
美味しくご飯を食べた後、精霊に事情を聞いたハロルドは頭を抱えるしかなかった。めちゃくちゃ覚えのある話だった。
(あの精霊木、この子の棲家だ──ッ)
何でこんなものがあったんだろう、と妖精たちと一緒に不思議がっていたその答えがこれだ。自ら目の前で「我の、我のお家!切られてしまったんだ!!こんな枝しか残ってない!!あそこの人間は許せないっ!!」と叫んでいる。
その精霊樹を加工した木材、精霊木で作った箒のおかげでアーロンを助けることができたのだけれど、これだけ悲しんでいると罪悪感がある。
「自然への信仰で我らはその力を発揮することができる。樹がなくなれば、我など赤子のようなもの。自力で復讐すら遂げられぬ」
ぐずぐずと鼻を鳴らし、泣くのを我慢しながら話された言葉に精霊樹を戻す方法を考える。合間に彼女の鼻をチーンしてやるのも忘れない。
挿木とかできる種類だろうか、もう少ししたら一気に寒くなるが大丈夫だろうか、などと考えて、それから「寒さに関しては温室があるな」と思った。それから、もう一つ。ある人物を思い出した。
「もしかしたら、アンネリース殿下なら」
枝を適当にぐさっと刺してそこから大きくしたわんぱく元気なお姫様。よく考えれば少し離れているとはいえバリスサイト近郊でよくあれだけの木を育てられたものだと思うけれど、あそこで木を大きくできたのだから、精霊樹を育てることも可能ではないだろうか。
ふむ、と一つ頷いて王太子に手紙を書いた。
徹夜になってしまったけれど、それが畑仕事を休む理由にはならないというように水魔法をスプリンクラーのように使用して水を撒く。軽く様子を見てから温室に向かってそこにも水を撒いた。預かった種はすくすくと成長しており、これを引き合いに出すだけで王太子はハッスルしてくれるだろうな、なんて若干思った。割とその考えは当たっている。何なら「巻き返しの機会!!」とばかりにすでに数名が走り回っている。
そこで挿木の準備をしていると、「ただいま!!」と元気そうな声が響いた。
「なんか、またうるさいのが来たな」
「俺の友人だよ。そんなこと言わないで」
「ふむ、ハロルドの友人ならいいやつそうだな!」
精霊のちょろさが少しだけ心配になる。けれど、アーロンは確かにいい奴なのでいいか、という結論で終わらせた。温室を出て「おかえり」と手を振る。
「おう!ハルが回復薬使ってくれたおかげでデケー魔力使いすぎた後遺症とかもなく、手も無事!!」
ほら、と手を出して見せながらにっと笑うアーロン。安心したように笑うハロルドを見て妖精たちも嬉しそうにニコニコしている。
実際、あの大量の矢を扱う際に限界以上まで使い切った魔力は魔力回復薬がなければ意識が今も戻っていなかったかもしれず、焼け爛れた手はもしかしたら麻痺が残ったかもしれないレベルだった。
せっかく信仰が増えたからと魔物に困っている土地の人間で波長のあう者がいれば解決策を授けたり、バリスサイトのように作物が育ちにくくなっている地域に少しだけ梃入れしたりと精力的に動き回っていた女神が、強大な力を感じてのぞいてみれば、加護を与えたとびっきり好きな我が子とそこそこお気に入りの子がやばい目に遭っていた。アーロンの手が焼け爛れた原因が自分の与えた魔導弓との相性が良すぎて限界以上まで魔力を引き出せたことということも相まって、「あの子も身を守れるようにしなきゃ……」と追加機能を兼ね備えた弓手袋が出るようにした。
「にんげん、もろい。こわい」
女神フォルテも大概人外目線で動いているところがある。人間の子供がここまで脆いと思っていなかった。人間たちのバランスも考えて、とウンウン唸りながらスキルやらアイテムを与えているが、今回はすごく肝を冷やしていた。ハロルドがいつの間にか妖精たちにめちゃくちゃ好かれていたから何とかなったけれど、今回アーロンに何かあればちょっぴり何かしらの神罰案件だった。
そんなことなんて知らないので、二人はお互いの情報を交換したりしながらのんびり談笑していた。
なお、精霊の女の子ブランについては「ハル、また人外誑かして」と思っているが口にしなけりゃセーフなのである。本人にそのつもりはないので、口に出せばちょっとだけ喧嘩になる。そういうのはお腹いっぱいなのである。
「我の!我の精霊樹、また元気になるか?なるよな!な!?」
「やってみなきゃ分かんないよ。俺だって挿木自体初めてなんだ」
ぴょんぴょん跳ねる、もう幼女としか言いようがない精霊を見ながら妖精たちは溜息を吐いた。ハロルドに世話をされるのは自分たちの役目のはずなのに、とちょっぴり思っているのは内緒である。
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