26.怒れる王子様
ハロルドと、大半は薬で治しているけれどまだちょっと調子の悪いアーロンを連れて王城に帰った彼らを待つのは荒ぶる王子様たちだった。
裏切り者を炙り出して牢屋送りにしたり、そんな人間たちに自白剤を飲ませて情報を吐かせたり、ハロルドたちを付け狙う性職者を捕まえに行かせたり暴れ回っていた。なぜかその性職者は捕まらないけれど、それがルートヴィヒの怒りを倍増させているので、王城に勤めているものたちは「さっさと出てきて謝ったほうが身の為だと思うけどなぁ」なんて思っている。怒れるハロルドを見てその気持ちはさらに大きくなった。
一応無事に戻ってきた二人を見つけてルートヴィヒとブライトは嬉しそうに近寄ってきた。
「ハロルド、アーロン!!無事でよかった」
「こっちも一応動いてはいるんだけど、ドブネズミみたいに隠れるのが得意でさぁ!!」
ブライトは唇を尖らせたまま、少し声を小さくして「やっぱりぶっ殺した方が早いんだけど」なんて言う。実際、それはそうだろうとハロルドも思う。けれどそれをやってしまうと自分も取り返しがつかなくなってしまいそうだ、と苦笑する。
「はは、我々は一応本能のみの蛮族ではないからな。もう少し頭を使って消さないと世間がうるさいぞ」
「そうだよねぇ。やっぱり法律もう少し勉強するかな」
「ハル、物騒度が上がってる気がすんだけど、俺の気のせい?」
気のせいではない。ないけれど、彼らがそんなことを考えても仕方のない事態であったのだ。
怒れる神子様案件は報告に出向いたダニエルのおかげで上部に正しく伝わった。王妃と王太子は揃って泡吹いて倒れかけていたけれど、なんとかすんでで持ち堪えた。
厄介ごとが多すぎて倒れている暇がないのである。
「ルイじゃないけど、冤罪でもなんでもいいから処刑してやりたい気持ちが強くなってきた」
一応法治国家だから、証拠固めや法律に則った罰則を与えなければならない。王族が法律を破って好き勝手していたら国が荒れる。それはそれとして個人の感情はまた別の話だ。
今からそのガチギレハロルドに事情説明をしなければいけない。胃がキリキリと痛む。
「あ゛ー、聖女も少しだけ関わってるんだったか?もう、ルイを手元に残してあのバカ出荷したい。なぁ、そうしないか?アイツ最近仕事してないんだけど」
愚痴を言いながらも、とりあえず現時点でわかっていることの報告書を読んでいる。
まだエレノアが「痛い、痛い」と泣くだけで聴取ができていないので大体しかわかってはいないけれど、今回は彼女とダドリーという名の司祭が主な犯人だということは判明している。
どうやら、目的は「加護持ち」というよりはハロルド自体であったようだ。エレノアの停学の件で学園に赴いた際に、ハロルドを見て「欲しい」という感情を抑えきれなくなったらしい。女神こだわりの中性的な美貌は人によっては神秘さすら感じて近寄り難くもあるけれど、それを穢したいと思う人間も一定数いるらしい。
何にせよ、女神の寵を得ていることを知っているのに暴挙に出るあたり、考えが足りないと言わざるを得ない。
聖女は「好きな人がいるから力を貸して、って言われたの。使い方は考えなさい、って注意したのだけど」と困った顔で言うのみだったらしい。彼女の言い分では、魅了は好意を引き出すくらいにすると思っていたとのことだ。
「本当に好きな人を魅了でどうこうなんてとても、ねぇ?」
と愛らしく首を傾げて見せた。
スキルの貸し出しなど前代未聞なこともあって、これからはしないようにということしかできなかった。
スキルでの魅了に失敗したエレノアは、ダドリー司祭を頼った。その司祭がハロルドを手に入れたいという欲を持ったことも知らないままに。
まだ不確定な情報ではあるが、アーロンを消すように唆したのはダドリーであったらしい。
「何かあっても邪魔になったエレノアのせいにできて、成功すれば親友を失い心が不安定になったところを付け込める、か?下衆め」
完膚なきまでに潰してやる、と呟いたアンリの言葉にダニエルは「まぁ、多分ルートヴィヒ殿下も他人事じゃねぇしな〜」と言う。
「今回の件で女神さんからなんかもらってるっつー話だったろ。加護までいかなくても相当力増してるぞ。冗談抜きで王家に置いておいた方が良い」
割と勘がいい乳兄弟の言葉で疲れたように背もたれに体を預ける。
「じゃあ、やっぱりさっさとあの公爵家も飛ばすか。安心しきってたのか知らないけどボロボロ弱味も出てきたし、あの娘にルイは勿体無い」
やることが多い、と呻きながら気の重い面談のために立ち上がった。
誰が恩人に危害加えた人間を守りたいと思うんだよ、と早々に届いたエレノアの両親による嘆願書はゴミ箱に捨てた。
仕事増える度に怨嗟の声が上がる王太子陣営。
人間の法で裁かれればまだいい方。
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