表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/496

25.ブチ切れ神子様




 現地に着いた騎士たちは、闇夜を赤く塗り替えるかのような炎と爆音に絶句した。



「ルートヴィヒ殿下が来る人間、選別するわけだ」



 これ以上舐めた真似しやがったらどうなるかわかってんだろうな、という強い意志を感じる。

 ハロルドは常に王家の判断も尊重してくれた。その結果が数名の裏切りと今回の友人が攫われるという事件だ。その前に起きたブライトの件でも彼は相当に頭に来ていた。今まで我慢してきていたそれが今回の一件で爆発したらしい。

 文字通り、爆発だ。火の柱が見える。


 その後、火が消えたかと思えば巨大な氷柱が一点を目指して落ちる。


 騎士一行を率いていた赤髪の青年は口笛を吹いた。王太子のもう一人の側近でもある彼はダニエル・カーネリアンという。

 彼はあのバリスサイトにもいた為、彼に例の妖精たちがついていることも知っている。



「神に仕え、神を慰め、神意を伺い、その力の一端を借り受けた存在のことを神子とかっていうんだけど、多分ハロルドってそれだよなぁ」



 王太子のそんな言葉を思い出しながら、何をやれば神だの妖精だのにそこまで気に入られるのだろうかと思わなくもない。

 けれど、実際に気に入られ、そしてその力を行使できるのだ。本人はあまりやりたくない様子でもあったし、今回のようなことが起こらぬよう徹底する必要があるだろう。



「さぁ、後片付けに行くぞ」



 彼らはハッと我に返ってそれに続く。

 神と妖精に愛された少年が、今もまだ自分たちの話を聞いてくれることを祈りながら。





「死ぬかと思った」


「俺と一緒なんだから早々死なないよ」



 ゼェゼェと地面に四つん這いになって息を整えているアーロンに比べて、ハロルドは余裕の表情だ。その足元にはまだ僅かに呻く宝石のようなものがあった。強化魔法をかけた足で思い切り踏みつけると、それはぴくりと震えたのを最後に動かなくなった。



「今回のことで俺もちゃんと理解した。ある程度わからせてやらないと周囲の被害が大きい。今回間に合ったのは運だ」



 逃げ惑う残りのリッパースクワロルはリリィが楽しそうに追い立てている。親玉が負けたからか蜘蛛の子を散らしたかのようだ。リリィの張り切りがご褒美目的なのが若干気にかかるが、アーロンはそのまま体勢を変えて座ると「まぁ、お前騒がれるの好きじゃねぇし仕方ねぇよ」と慰めるように言った。



「好きじゃないで済んでいい話じゃないだろ。これは」


(これは、しばらく収まらねぇな)



 やれやれ、と思っているとガシャガシャと金属がぶつかる音と、馬の蹄の音が聞こえた。



「ハロルド殿、アーロン殿、ご無事ですか!?」



 綺麗に作られた笑顔を向けられて、先頭の男は「あ、ヤベェ」と思った。彼の母親も本気の本気でブチギレた時は笑顔だ。怒りというのは極まるとそうなるものなのだろうか。

 ただ、彼がまだセーフ判定だったのはきちんとアーロンの名前も出したからだろう。これでハロルドにだけ安否の問いかけがあったなら国外脱出フラグである。まともな加護持ちが去り、ヤベェのだけが残り、さらにルートヴィヒとブライトが叛旗を翻す物騒なフラグがてんこ盛りだった。



「それで、今回の件は、今からご説明頂けるのですか?」


「あー、それは出てくる時にルートヴィヒ殿下がなんか妙なもん持って動き回ってたから王城に行ってもらった方が詳しく説明が聞けるかと。それに、アーロン殿やそちらの罪人の手当ても必要ですし」



 視線をそちらに向けることすらないけれど、「痛いの、暗いの」と啜り泣く声は聞こえたようで苦笑しながらそう言う。他の神官服の男たちに関しては五人ほどがエレノアに付いてきたようだったがそのうちの一人か二人だけが生き残っていて、あとはリッパースクワロルの食べかけだ。



「ああ、簡単に死なれたのでは真相やら後ろにいる人間が分かりませんしね」



 痩せ細った孤児の子供を見つけた時とは違ってえらくドライな反応だ。表情が笑顔で固定なのが恐怖を煽った。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ