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22.囚われ狩人




 少年は目を覚ますと、深い森のような場所の奥地で後ろ手で縛られていた。



(うん、いざとなれば魔法で切れるな)



 とりあえず、周囲を確認しようと周囲に目を向けると、ニヤニヤと笑う数人の神官服の男とその中央にエレノアがいた。本当に懲りないな、と冷めた目で見てしまったのが気に食わなかったのか、蹴りが飛んできた。強化魔法を咄嗟に使ったけれど、しつこく踏みつけたりもしてくるのでそれなりに痛い。けほ、と咳き込んだことに満足したのか、「身の程を弁えないからだ」と神官の一人が言った。



「ふふ、これでハル様はこちらにいらっしゃるのね」



 恍惚とした表情でそう言った少女を見つめて、少年アーロンは「バッカじゃねぇの」と思った。

 確かにハロルドはこの場に来るかもしれない。アーロンだってハロルドが攫われれば各所に連絡してからダッシュで駆けつける。そう、一人でなんか来るわけがない。来たとしても、それは彼女たちをそれこそボッコボコにする時だ。少なくとも、思い通りにはいかないだろう。



「あなたが邪魔したって、わたくしとハル様の愛は妨げられないわ」


「は、ハルがお前のこと好きみてぇな言い方すんな。きっもち悪い」



 邪魔してやっていたのだってある意味ではアーロンの慈悲に近い。その後ろでエレノアたちを睨みつける妖精たちの姿を、「いっそハロルドくん襲ったことにして殺していい?」とか言い出したブライトを、「襲われたとなればハロルドの評判に傷がつくかもしれんだろう。妥当に家を潰そう」と言っているルートヴィヒを見ていないからきっとこんな頭の悪い発言ができるのだとアーロンは思う。

 ハロルドは特に過激なことが好きなわけではない。関わらずに済めば、次第に興味を失っていっただろう。


 アーロンの言葉に苛立ったのか、再び暴行が始まるけれど、彼はバレない程度に魔法を使う。ハロルドのそばで一緒に練習していることもあるからか、そのコントロールは巧みだ。絶妙にバレず、身体に大きなダメージがない程度にとどめている。けれど完全にやるとバレるので、肌には傷がついていて痛々しい。

 彼らが散々に痛めつけてから「やめて差し上げて!」と言い出すエレノアを若干引きながら見つめる。


 不思議と笑顔のままの彼女は淡い紫色の液体を持っていた。それをアーロンに何度か吹きかけると、楽しそうに笑った。



「この香水はね、司祭様がわたくしとハル様が結ばれるのに必要だと手配してくださったの!」



 自分に吹きかけるということは媚薬の類ではないだろうとその意図を考える。

 ──けれど、それはすぐにわかった。赤く輝くたくさんの小さな目が自分に向けられているのを感じる。そのプレッシャーに冷や汗が出た。



「おい、何しやがった」



 硬く、緊張した声音に彼女は愉しそうに笑うだけ。「じゃあね、おばかさん」と小さな声で呟いて男たちに崖の端までアーロンを連れて行かせた。

 そして、蓋を開けた瓶の中身を全てぶち撒けて、彼を崖から放る。



 赤い瞳が、その瞬間を逃さなかった。

 彼を餌だと認識したソレ等は歓声を上げるように、飛びかかってくる。身体を広げた小動物の姿の魔物たちは迷うことなく、アーロンに近付く。

 餌になってたまるか、と魔法で縄を切って手首についた銀の腕輪に魔力を通す。



「ネズミどもが、調子に乗るんじゃねぇ!!」



 落下しながら弓の形になったそれを思い切り引く。着地に必要な力を考える余裕はなかった。大きな魔力の塊が彼の手を焼きながら矢の形を作る。



「消し飛べ!!」



 手から離れた魔力の塊は千の矢となって魔物たちに降りかかった。

 それだけの魔力を使ったアーロンの意識は途切れそうになる。絶対に気を病むであろう友人に向けてか「悪い」とその唇が紡ぐ。魔物たちの多くは消し飛んだけれど、彼は崖下へと落下していく。

 猶予は、少ない。




 香水という形を取ったからだろうか。

 その香りはまだ崖の上にも漂っていた。


 真暗闇に一際明るい赤が一対。

 その身体はまるで琥珀のように美しく輝いて、動物のような柔らかさは感じられない。少し大きめのモモンガのようなそれは斧を両手に持っていた。身体も武器もキラキラと輝いて()()のようだった。


 ()()が一声鳴けば、リッパースクワロルとその亜種であるモモンガ型のものたちが周囲に集まっていく。


 崖の下に落ちた少年は、聖なる気配を孕んでおり美味そうではあった。けれど、落ちた少年を喰うことはそう難しい話ではない。

 それより、とそれ等は目の前にある()()に目を向けた。柔らかそうな肉とそれを守るように少し固そうな肉がそこにあった。

 人の少女。それは見るからに若く、柔らかく、旨そうだった。この時期は段々と食べるものも少なくなってくる。

 リスやモモンガの形であるそれ等は一見それ等と同じように草食だと思われがちだが、なんでも食べる雑食である。討伐ランクが意外と高めであることも相まってか、存在を確認できるのは屈強な硬い肉ばかり。その中で見つけた馳走に涎を迸らせた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

感想もありがとうございます!!


相手、獣だからね。

肉扱いも仕方ないね……。

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