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7.才能




 ハロルドにもアーロンにも狩り以外の仕事があるし、それ以外にもやらなければいけないこともある。それもあって、二人が次に集まったのは三日後のことだった。

 そして、ハロルドはすんなり属性魔法やら肉体強化魔法を覚えてしまったアーロンに唖然としてしまった。ハロルドは自力で貸し出し禁止の資料を覚え、時にはギルド職員に文字を教えてもらいながら、一生懸命考えて習得した。それを教えたそばから「なんとなく」でさらっとやってしまったアーロンを少し羨ましくも思う。



(才能って怖……)



 文字を教えてもらえる時期に父親が亡くなってバタバタしていたらしく、あまり読み書きが上手くなかったアーロンはこれを機にハロルドと一緒に文字の勉強もやり出した。10歳の少年二人があまり時間は取れていないとはいえ、ギルド内の勉強室で一生懸命勉強していれば味方したくなるというのもあるのか、分からない事を聞きに行けば職員等は快く教えてくれた。

 冒険者協会から派遣されているギルド職員は王都で学問を修めている。数年置きに配置換えがあるのは癒着を防ぐ意味合いがある。何代か前の王の統治時にそういうことがあったためこのシステムになった。



「勉強するのは良い事だよ。数十年前の話なんか関係ない、自分達だけは騙されないと思っている人も多いから」



 ギルド職員の受付お兄さんは少し遠くを見るような目でそう告げた。

 最近また増えたという被害に被害者家族からの捜索等の依頼が出ているらしい。まだ子どもの二人に任される任務ではないけれど、こういった子どもたちを食い物にする者たちもいるから、と彼は勤勉な子どもたちが被害に遭わないように話す。



「出稼ぎに行った人がボラれてあんまり金もらえねぇ、とかもザラだしな」


「文字の読み書きができないと足下見られるからね」



 子どもがするような会話ではないかもしれないけれど、この世界に生きていれば頻繁に眼にする、もしくはその当事者になる。こういうことがある、と忠告してくれる人間の存在は貴重だ。


 にこにこと目の前の少年二人を見る青年は、彼らを背後から襲撃しようとする男三人に雷撃を落とした。そういった感覚に敏感なのは光の加減次第では金色にも見える小麦色の髪の少年の方だった。振り向くが、すでに男たちは回収されており、そこには何もない。

 ギルド内での犯罪行為など舐めた真似をする、と内心では唾を吐いて舌打ちしても、表情には全くそれを出さないあたりが彼の貴族家育ちの一面を感じさせる。


 都会や栄えている地方都市での職員は半数かそれ以上に女性もいるけれど、こういった寂れた土地での職員は8割以上が男性で占められている。優秀さなどで振り分けられているわけではない。ただ、性別で文句をつける者によって業務が妨害されることを抑えるためのものだ。大きい都市にはそれなりのランクの冒険者から職員になった者もいるし規模が大きいため窓口が多く、ある程度融通が利く。田舎になればなるほど施設は小さくなり、それに伴って窓口も小さい。



(困るんだよなぁ、将来がある程度期待できる子たちに手を出されるのって)



 青年が目をかけていたのはハロルドの方だ。平民の少年が魔法の発生機序を理解し、友人に説明して習得させるに至った。

 確かにアーロンの吸収力の高さにも舌を巻く。けれど、その才覚を見出す感性と実際に教えることができるまでに理解した彼にも光るものを感じる。

 冒険者に登録する人間は多い。生活に困った時に小遣い稼ぎ程度でも金を欲してやって来る者もいる。そこから身を持ち直す者もいれば、這い上がってこれない者もいる。忠告を聞き入れて慎重に進んでくれる少年たちへの好感度は高い。



「アーロンくん、ハロルドくん。査定終わったよ。食用部分は持ち帰りだったね」


「はい!ありがとうございます!」



 パァと表情を明るくして元気よく返事をしたアーロンはすでに勉強に少し飽きていたのかもしれない。それに加えて、彼の家にはお肉大好きな弟妹がいる。以前までは一人でやっていたので、スカークロウに奪われることもあったし、もっと大きい魔物との遭遇で持ち帰りできず逃げることもあった。なので、今きっちり食事を食べさせることができているのは嬉しいと感じている。


 同じく礼を言いながら、「あとこの部分だけ」と資料に目を通すハロルドは勉学自体に興味があるのかもしれないと青年は頷いた。


 ハロルドは少しでも安全に優しい世界で生きていくために知識を欲している。何がかはわかっていないが、主神とやらのやらかしの割を食っているらしいのでその影響を少なくするためにつけられる力はつけておきたかった。



(女神様の礼拝方法も一応調べたけど、神殿とかないしな。……日本でいう神棚は組み立てたことあるけど)



 片隅でそんなことを考えながら目を通して、それを閉じた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

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