表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/494

21.逆鱗

本日更新2回目




 教師との話を終えたハロルドは、アーロンが待つ教室へと戻る。そこにいないアーロンを不思議に思っていると、机の上にある可愛らしい封筒に気がついた。

 女物の甘い香水の香りが鼻につく。危険性はないようだと開封すると、丸い癖のある字で手紙が書かれていた。


 まだるっこしい書き方ではあるが、手紙の主はハロルドのことを誰よりも思っていて愛している。けれど、それをいつも邪魔をする人間がいるので、今日は遠慮してもらった。一緒にいたいから指定の場所に来い。来なければ友人がどうなるかわかってるよな?という内容である。

 感情の窺い知れない顔でクシャリと手紙を潰す。小さな声で妖精に「アーロンにも人がついてなかった?」と聞くと、リリィは「ついてたわよぉ〜?」と少しだけ心配そうな顔で返した。


 魅了の件もあって、警護はより強固になっていたはずだった。そういう約束もあって少し離れたけれど、間違いだったかもしれない。



(王城の方も掃除が終わってない可能性が高いな)



 犯人に目星はついている。エレノアか、あの下品な手紙の主か、それとも両方かだろう。



「ローズ、お願いがあるんだ」



 珍しいハロルドの頼み事と、優しい声音に彼女は舞い上がった。伝言を受け取ったローズは柔らかな翅を広げて飛び出した。柔らかな笑顔も、優しい声音も、どこか薄寒い。



「君たちはお互いの大体の位置が分かるんだっけ?」


「そう」



 頷くネモフィラの肯定に笑みを深くして、ハロルドは教室を出た。

 すれ違った人間の一人にこっそりとメモを渡されるけれど、彼はそれを見ないことにした。おそらく、ハロルドが女神の加護を持っているため、何かあった時のことが怖い。だから動くな、という指示だろう。けれど、悠長に我慢してやれるだけの忍耐はすでにない。ハロルドは十分にエレノアにも、フォルツァート関連の宗教関係者にも、警護を担当している人間たちにもチャンスを与えてきたはずだ。

 彼女たちはハロルドをたかがフォルテ神の加護持ちだと馬鹿にして、ハロルドの外見だけを欲して欲望に愛と名をつけて友人を攫って行った。

 そして、警護をしている人間たちは所詮は平民の子供とアーロンのことを真剣に守らなかった。


 無表情で淡々と学園の階段を登っていく。どこか苛立たしげに封じられていた屋上へのドアを力いっぱい蹴破る。

 右の手を真横に伸ばして「開け(オープン)」と小さく唱えた。指の先に銀色の鍵が現れてそれがハロルドの魔力と混じって異空間魔法の扉となった。そこから木の棒のようなものが出てきてそれを掴む。それは魔法箒だった。


 美しい木目と幾つかの古語が刻まれたそれに魔力を通す。風がハロルドたちを包んで少しだけその身体が浮く。

 十分に魔力を吸った箒にさっと飛び乗ると彼は大空に飛び立った。



「指定されたところまで飛ばすよ。……ちゃんと入れた?」



 ポケットに入り込んだリリィとネモフィラが返事をすると、ハロルドはその速度を上げていった。




 用事があってさっさと帰ったルートヴィヒとそれに付き合っているブライトは書類の整理が一段落したところだった。

 召喚された聖女に夢中になりすぎて政務が疎かになっている第二王子。その仕事が割り振られることが多くなってきていた。

 最近では何かの前兆のように、聖職者絡みの面倒が起きており、そのせいで王たちも働き詰めだ。後宮などにも手を入れなければいけない事態になっていることもあって、せっかくバリスサイトが片付いたというのに王太子の目の下の隈は健在だ。

 そして、その手助けをしなければいけない立場の第二王子、ジョシュア・イヴァン・エーデルシュタインは聖女と共に聖職者と何やらしているとも聞く。



「全く、私は役立たずの第三王子、のはずだったのだが」



 周囲の変化にぼやくくらいは仕方がないだろう。ルートヴィヒは机に肘をついてカップを口に運んだ。ブライトも苦笑しながら「お行儀が悪いってエドワードさんにまた怒られるよ」なんて言っていると、窓が勢いよくバリンッと割れた。敵襲か、なんて思っていると赤い服の可愛い少女の形をした妖精が「ハルから急ぎの伝言なの!」と左手を腰に手を当てて、右手の人差し指をビシィっと前に突き出しながら言った。



「ローズちゃん、何事?」


「アーロンが攫われたらしくって、ハルがとっても怒っちゃった!えーっと、ドハツテン、ってやつ?」



 ローズの話を聞いた二人からも表情が抜け落ちる。

 ヤベェ事態が起こっていることは秒で理解した。



「今アーロンについているのは誰だ。ハロルドは割と我々のことも大事にしてくれているが、正直祖父母の次に手を出してはいけないのがアーロンだぞ」


「平民だからって甘く見ちゃったんだろうね。人選ミスかな。これってどこに言う案件?」



 人を手配して王へと伺いを立てる。



「あの子に手を出すなんてバカよね。アーロンだって女神のそこそこのお気に入りなのに」


「そういえば、魔弓はフォルテ様に下賜されたものだと言っていたな」


「まぁ、ハロルドくんがとびっきりだとしても、そんな子に気に入らない人間近寄らせないよねぇ」



 そんなことを言いながらも身なりを軽く整えて、ローズに「すぐに援軍を送る。まともなやつをな」と伝えて二人は手を振った。

 ローズは出ていく時に「あ、割っちゃダメだったかも!」と適当にガラスを溶接してから飛び立った。

王宮組の本音

「このクソ忙しい時に要らんことするな!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ