20.悪巧み
エレノアはいつも通りに信仰する教会の司祭に指示を仰いだ。どこか上の空だった司祭に眉を顰めていると、やがて司祭は何か良いことを思いついたと言わんばかりの顔をする。
司祭の男は、ハロルドの容姿を忘れられずにいた。目の前にいる女など、足元にも及ばない美しさだった。対応から感じるあのどこか生意気な少年の表情を寝所で崩すことができれば、どんなにか気分が良いだろう。
幼い時から愛人として好き勝手にしてきた少女はもうどうでもよい存在に成り下がっていた。だからこそ捨て駒としての良い活用方法を見つけて口角を上げた。
アーロンは困っていた。
ハロルドが教師に呼び出されている時を狙ってだろう。数名の男子生徒に囲まれた。学園は平等を謳ってはいるけれど、どうしたって外に出れば貴族と平民では差が大きい。ハロルドは圧倒的顔面力で笑顔一つでスッと逃げるけれど、そんな真似ができる人間は他に早々いない。
ニヤニヤと笑う貴族子息である彼らはアーロンがその格差ゆえに逆らえないのだろうと思っている。けれど、アーロンが困っている理由として、もっと大きいものは別にある。
(やっべぇ。ハルが怒る)
彼の脳裏に浮かぶのは「へぇ」という一声だけで目の前にいた少女を圧倒したハロルドの姿だった。それから、最近ストレスマックスのブライトや、ウッキウキでハンベルジャイト家の破産までの道筋を立てているルートヴィヒの姿も思い出す。たまたま魔法の才能があっただけでわりかし平凡なはずの彼は、結構な大物に囲まれていた。
しかも全員が全員、友人に恵まれてこなかったせいかアーロンを特に大切な友と認識している。ハロルドなんて特にそうなのか、自分自身に何かされる時よりも沸点が低くなる。
(つっても、お前らの命がかかってるなんて言っても信じねぇだろうしな)
ハロルドはかろうじて這い上がれるかも(?)くらいの猶予をくれるけれど、残り二人は「死ね(物理)」と「死ね(社会的)」である。なんなら家まで消えるかもしれねーぞ、なんて平民が言っても信じてはもらえないだろう。
「貴様のような下賎の者には勿体無い方からのお呼び出しだ。光栄に思え」
「あ、礼儀とかに自信がないので結構です」
さよならーと去りたかったけれど、こんな時に限って彼らは異様に連携が取れている。退路を防がれて舌打ちしなかっただけアーロンはよく我慢していると自分をほめたくなった。
よくよく観察してみると、おそらくこういった行為に慣れているのだろう。ワザと逃げ出す隙があるが、そこに飛び込めば無理やり連れて行かれるだろう。かといって、今アーロンにできることといえばハロルドを大人しく待っていることくらいだ。
どうすれば穏便に逃げられるのかを周囲を観察しながら考えているアーロンだったけれど、残念ながら背後から近寄る、後ろ暗いことを生業とする人間には気が付かなかった。王侯貴族が通う学園でまさかそんな物騒なものが出没するだなんて思ってもいなかったし、そんなことを気にするほど頭が花畑の依頼人がいるとは考えていなかった。
気絶させられたアーロンは、そのまま連れて行かれることとなった。
そして、そのことで目的の人物が「徹底的にやろう」と一切の躊躇を捨てることを犯人たちは想像すらしていなかった。
それ、トップクラスの地雷やぞ……
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