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19.戻ってきたエセ清楚




 エレノアは決められた期間をきっちりと領地にある家で拘束された。今まで頻繁に訪れていた司祭はなぜか来なくなり、もしかすると忘れられていたのではとも思う。

 学園に登校してハロルドの姿を探す。いつも通りに自分の姿を確認して、一番綺麗な笑顔を作ると話しながら歩いているハロルドとアーロンに向けて歩き出す。話しかけられる距離に届こうとした時だった。

 真上からそこそこの量の水の玉が落ちてきた。驚いていると、耳元で「近づかないで」とどこか淡々とした少女の声が聞こえた。



「ネモフィラ、ナイス」


「朝イチ水浸しはちょっと可哀想だけど、性懲りもない……」



 親指をグッと立てるアーロンと呆れたように言うハロルドはすでに逃げていた。向こうは懲りていなくても、彼らはもう面倒は懲り懲りだった。特に好き好んでそういう目に遭っているわけではないので余計に、である。

 エレノアはキッと二人を睨んでから、ハッと周囲を見渡してすぐにうるうるとした瞳でハロルドを見つめた。それを冷めた目で見る人間は彼女が想定しているよりも多くなっている。


 エレノアがいない間に「清々した!」とばかりに羽を伸ばす彼らを多くの人たちは見ていた。教師的にも、本来優秀な成績を修めている子どもたちが勉強も日常生活も頑張っている様子が増えてホッとしたものだ。今更取り繕っても無駄だった。



「それにしても、出てきて早速あれじゃあちょっと心配だな」



 ハロルドが眉を顰めた。

 チラリと見た限りでは一応まだ魅了が扱えるようだ。ただしそれは以前よりも大分弱まっているようで、期限切れが近いという証拠だろう。他の被害がないからああやって呑気に出てきているが、相手がハロルド以外の加護持ちであれば、死んでいてもおかしくない。

 アーロンはなぜかフォルテのお気に入りの一人になっているらしく魅了への耐性があるけれど、通常そんなものがある人間は少ないのだ。期限付きだからこそやらかす可能性がある。



「少しくらい反省してくれないかなって思ってたんだけどな」



 貴族令嬢が退学一歩手前まで追い込まれている状況、それ自体が彼女の縁談などが来なくなる原因にもなり得た。ここでなりふり構わず努力をすれば、きっと卒業までにはまぁまぁ評判はマシになっているだろう。ハロルドだって鬼ではない。前世が30代であったこともあって、めちゃくちゃ努力する必要はあるけれど現状を打開する手段くらいは残しておいてやってもいい、と伝言を残しておく程度の優しさはあった。

 けれど、エレノアはその気質からして楽な方へと流され、享楽に耽る傾向があった。もしかすると、ハロルドを落とせれば全てがチャラになると思っているのも原因かもしれない。


 まるで相手にされていないエレノアは、「まだ、まだ手はあるわ」と呟いて、せっかく戻ってきた学園だというのにすぐに校舎に背を向けた。






「殿下たちが気に入ってるヤツに手を出すなんて愚かしいな」



 黒髪の男子生徒が上階からそれらを眺めていた。すでに背は他の多くの生徒よりも高く、筋肉量も多い。ある程度完成された肉体美がそこにはあった。その銀色の瞳がスッと細められる。



「まぁ、馬鹿な奴らを炙り出すには丁度いいか」



 組んでいた腕を解いてその場を去る。

 それなりに高い位を持つ男子生徒は両親にどう報告を入れようか、と少しだけ考えながら。

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