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17.美しさは罪とはいえど




 二人が学園に向かうと、なぜか数名の男子生徒に囲まれた。皆、何かしら制服を改造している。中央にいる丸めの少年は若干成金趣味とでもいうのだろうか。あちこちに宝石を縫い止めた制服は趣味が良いとはいえない。



「エレノア・ハンベルジャイト嬢はいつ戻るんだ」



 せっかく停学となって顔を見ずに済んでいるのに、名前を出されて二人の表情は少しだけ「なんだコイツ」とでも言うようなものになった。

 エレノアという名を出すのも嫌なので二人で話す時は「エセ清楚」だの「清楚詐欺」だのと呼んでいるくらいだ。



「存じ上げませんが」


「嘘をつけ!!貴様があの可憐で美しい人を自宅に軟禁しているということはわかっているんだぞ」



 その言葉を聞いて「何言ってやがるんだ、こいつ」と口に出したアーロンは悪くない。実際にハロルドも同じことを言いたげな顔をしている。



「品行方正を地で行くタイプのハルが、そんなクソ面倒なことするかよ。逆ならまだしも、ハルがんなことするなんて誰も信じねぇぞ」



 そんなこともないと思うけど、と思いながらハロルドは苦笑している。ただ、確かに学園に通っていれば何をどうしたらそんなことをしようと考えるのか分からぬような問題児はいた。それも一人や二人どころの騒ぎではないのだから普通にしているハロルドやアーロンたちが優等生扱いされるのも無理のない話ではあった。



「そもそも彼女が停学になった経緯も存じ上げませんし」



 困ったような顔をしてしれっとそんなことを言う。彼らはそういうことにしていた。

 実際にはバチクソにキレた女神の寵児がこの国のトップにエレノアをぶん投げたことなんて、誰にもわかりはしないのだ。変に権力をひけらかして喧嘩を売ればそれこそ目立ってしまう。



(そもそも中身がアレじゃあな。綺麗な顔ってだけなら今の自分の顔を鏡で見てた方がよっぽどだし)



 まだ少年という年齢も合わさってか、現段階のハロルドの顔は中性的な美しさを持っている。ちょっと可愛い、綺麗なだけの顔なんて鏡を見るだけで事足りる。そういったところもまた、フォルツァートの教会の人間たちの予想外だった。別にハロルドが「とびっきり美形でモテるようにして」と頼んだわけではない。むしろ「ハーレムもチートも向いていない」と主張していた。この顔は現在の親からの遺伝と女神の趣味である。



「で、でもだな!!」


「では、授業がありますので失礼いたします」



 意図してやんわりと微笑んだ。その表情に男子生徒は見惚れて、我に返った頃にはハロルドたちは教室だった。



「ストーカー増えねぇか心配」


「いっそ顔に刺青でも彫るか……?」


「朝から怖い話しないで!!絶対痛いよ、それ」



 すでに教室にいたブライトが心の底から刺青を止める。ある意味思い切りがいい発言にアーロンも心配とは言いながら驚いた。




 エレノアの処分に関して手を入れるために男は学園に足を運んでいた。小麦色の髪を持つ少年が絡まれているのを見ながら、自らの愛人がうまくやっていたようだとほくそ笑む。絡んでいる方の少年は最近商売がうまくいっている家の出身であったはずだ。フォルツァートの神殿への心付けも忘れぬ良き民だ、と彼は思っている。

 終始面倒そうな顔をしている日に焼けた肌の少年の後ろから、エレノアなぞ比較にならぬほどの美貌が現れて男は息を呑んだ。

 柔く微笑んだその美しさに見惚れた。



(所詮平民と思っていたが)



 美しい少年であるという報告は届いていた。だが、それでもあれほどだとは誰も思うまい。

 金色の瞳に魅入られ、稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。



(あれはエレノアには勿体無い)



 あの女神の視線すら手に入れた少年を手に入れたい。

 男はそんな好色さを隠そうともせぬ目でハロルドたちを見送った。

に げ て



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