16.水晶花とヒミツ
満月の夜、妖精たちはワクワクとした表情で花を見つめていた。
ハロルドとアーロンはすでに眠っており、その部屋にはいなかった。月の光を取り込むかのように花びらがキラキラと淡い光を発しながら少しずつ開いていく。
それはまるでおとぎ話のような光景だった。透き通った水晶のそれぞれ違う色を持つ花が完全に花開くと妖精たちはそれぞれが自分のものと定めたものに触れる。溶けるように消えていった妖精たちは、花の中へと入っていた。
少しして戻ってきた彼女たちは少しだけ成長した姿になっていた。サイズはやはり小さくはあるけれど、人間でいう10代も半ばくらいの容姿になった彼女たちはどこか興奮したような顔をしている。
「すっ……ごぉい、マナだってこんなに立派に育てられなかったのにぃ」
「力、いっぱい」
「パワーアップしちゃったわね」
三者三様に喜んでから、ローズが「でも」と考え込んだ。
今になって、ハロルドが華々しく力を誇るタイプでないことを思い出した。
「アタシたちが進化したのバレたら、ハルってば目立っちゃうよね?」
「ハル、都会苦手」
「ずっと王都に拘束されちゃうの、可哀想よねぇ」
三人が、うんうんと唸って考え込む。
やがて、ネモフィラがポンと手を叩いた。
「ボクたち、考えすぎ」
「どういうこと?」
「バレなきゃ、よし…!」
ナイスアイデア、とばかりに言った言葉はハロルドにしてみれば知らぬ間にある種の爆弾を背負い込むものではあった。けれど、一方でバレなければ目を付けられないのも事実なので、ローズとリリィも「それだ!」とばかりにキラキラした目で頷いた。
手のひらを天井に向けて、そのままドレスの裾を持つようにどこか装飾の増えた服をもう片方の手でつまむ。そのままくるりと一回転すれば、キラキラした光の粒とともに7歳くらいの女の子の姿に戻った。
「これでハルもウチらが成長しただなんて思わないわねぇ」
三人はそうやっていそいそと再び花の中へと戻っていった。
翌朝、庭の水やりに向かおうとすると、水晶花が目に入った。美しく咲いた水晶の花に驚く。もっと濃い、それこそ植物らしい色合いだった気がしたけれど、咲いた花は宝石のような色だ。
「これは、すごいな」
思わず少し感動してしまう。
少し触ってみたくなって手を出すと、触れる前に花の中からポンっと可愛らしい音を立ててローズが現れた。両隣からも同じくネモフィラとリリィが現れる。
(そういや、棲家って言ってたな)
そんなことを思い出していると、三人がハロルドの名前を呼びながらまとわりついてきた。
そして、なぜか種を押し付けてきた。
「これは水晶花の新しい種よ!」
「ハルの花、楽しみ」
「次は何色かしらぁ」
ワクワクした顔の妖精たちにハロルドは「花が咲いたのに、バリスサイトには帰らないのか?」と不思議そうに首を傾げた。その言葉に妖精たちはムッとした顔をする。そして、ハロルドをドカドカと殴り始めた。その様子は傍目から見ていると、ポカポカと妖精たちがハロルドを叩く微笑ましい光景だが、その音は鈍い。
「い、痛……!?え、どこからこんな力が!?痛っ」
「ハルのバカー!!」
「女心、勉強して」
「ウチら、一生引っ付いてやるんだからぁ!!」
それを見ながらアーロンは「こっわ」と呟いた。すぐそばにいるのでその音の鈍さもあって普通に怖い。
やれやれと彼らに近づいてハロルドを引っ張る。
「大丈夫か?」
「助かった」
とりあえず、ハロルドは妖精たちが自分から離れる気がないことを把握はできた。ただ、彼女たちの攻撃は本気で痛かったのか腕をさすった。
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知らん間に爆弾が火力増してる。
なお、精霊ちゃん出てくるの、あともう少しだけ後なんだ……。