14.束の間の平穏
エレノアが停学処分をくらったおかげでハロルドとアーロンはとても平穏な暮らしを取り戻していた。二人でのんびりと歩けるのも久しぶりである。ブライトはたまに泣き言を言いながらもルートヴィヒと一緒にいる。ハロルド的には正直、伯爵家の子息なこともあって、自分と一緒にいるよりもよほど正当な身の置き場ではないかと思っている。
「それにしても、まさか影?さんたちも魅了くらってたとは」
「どうりで居場所がバレてたはずだよ」
今まで某聖女たち以外にそういったスキルを持った人間がいなかったこともあってか、耐性が低かったらしい。ハロルドの警護についていた皆様は「申し訳ない!!」「修行しなおします!!」と言って交代していった。今は魅了というスキルを悪用する人間たちへの怨嗟の声を吐きながら各々それに対抗するアイテム等を獲得しに動いている。王も王太子も「いや、アイテム国で手配するし……」と説得を試みたものの、警護対象者にアレらを近付けてしまった自分たちが許せずに修行がわりに行ってしまったようである。修行が終わってもハロルドの警護に戻れるとは限らないのだが、それで次があってはいけないと彼らは気合いを入れていた。
ついでにブライトに近づくための取り巻きもほとんどが魅了で引き入れられていたらしく、今はもう普通に戻っている。たまに“本物”がいてそれらに睨まれているけれど、彼らも何かを言われているのか睨むだけだった。
「やっぱりこうやって適当にブラつけると気楽だよなぁ〜」
アーロンはグッと背伸びして、屋台の串焼きを見つけて目をキラキラさせている。目の前で焼いている肉とタレの匂いにつられて、二人は屋台へと向かった。
座って肉にかぶりつきながら、「そういや、花屋は寄らねぇの?」と聞かれて、ハロルドは頷いた。
「なんか、最近アンネさんがたくさん送ってくれた」
外だから敬称やきちんとした名前でなく、周囲にバレないようにと愛称を使っているけれど、その名前は第二王女、アンネリース・アビゲイル・エーデルシュタインのものである。「ルイの妹の?」と聞けば、「そうだよ」と返答があった。なんか面倒の予感がするな、とアーロンは思っていたけれど、友人の妹という感覚しかないハロルドは「最近知り合った人たちからもらった珍しい種類の種とかも送ってくれてるんだ」と言いながら最後の一口を放り込んだ。
「やっぱり何か返さないと気持ち悪いよね」
バリスサイトの農作業関連で文通みたいなことをしていた彼らだが、ハロルドが向こうに送っていたのはあくまで肥料などの物資だ。希少な種と釣り合うとは思えず、もらってばかりは気が引ける。
なお、それが王都近辺地域における慣わしの産物であるなどと彼が知るはずもない。ハロルドは割と辺境の地で生まれ育っている。この時期は冬に向けて食料などの物資を確保しつつ、秋の終わりの祭りの準備をしているものだった。祭りとは言っても王都のものとは比べ物にならないほど小さなものだ。
「そういや、もう少ししたら収穫祭か。こっちでもあるんだっけ」
「うん。村ではご馳走の出る日っていう感覚だったけど、こっちではどうなのかな」
そんな事を話しながら串をゴミ箱に捨てて、露店巡りを再開した。
適当に回りながらハロルドは実験用の魔石、アーロンも防具等を購入する。あまりピッタリのものを購入しても、成長盛りの身体はすぐにサイズが変わってしまうので結構物入りだ。
そうやって歩いていると、なぜか強い力を感じる木材が置いてあった。一体何に使えるのか、と一本だけ、しかも若干細い角材を見ていれば、店主が「お目が高いな、坊主!!」と大きな声で笑った。
「これはフォルツァート様の神殿を建てた後に余った木材なんだぜ!」
一瞬だけ嫌な気分になったけれど、自分の事情なんて目の前にいる男には関係ないと営業スマイルを維持する。ちなみに男は「だがまぁ、この細さの木なんぞ使いようがねぇよな!」とため息を吐いた。要するに、廃材を無理やり売りつけられたらしい。
「まぁ、工作くらいでは使えんじゃねぇか?うん」
「高かったんじゃないの?」
「言われたままの値段で買い取るわけねぇだろ、こんなもん。つーか、なんでまぁこんなとこでそんな大層な木材を売ろうと思ったんだろうな」
神官の服を着た男に必死に頼み込まれて、鬱陶しかったから捨て値で買い取ったらしい。もう少しなんとかならないかと言われたそうだが、「別に俺は要らんぞ」という店主の一言でやっと諦めたらしい。
「そもそもウチは野菜売りだぞ。持っていくならせめて家具屋とかにしろっつー話だ」
呆れたように言う店主に「それはそう」と返す。やはりそれが気になるのか、ハロルドはそれを見つめる。魔眼を発動させれば「精霊木」という表示が出た。
精霊木。
精霊樹を切り倒して作られた木材。それなりに力ある精霊が棲んでいたのか風の魔力を多分に含んでいる。
そんな説明を見ながら、「切り倒したってことは、精霊が棲まなくなったのかな」と首を傾げる。まさか、アホな理由で重要っぽい木が切り倒されているなんて思いもしない。
(実験に使えそうだな)
ダメそうだったら、ニュー神棚にでもしようと考えてハロルドはそれを購入した。
自宅に帰ってから妖精たちに聞いた話では、妖精たちが水晶花を好むように精霊にも木の好みがあるので、切り倒されるのはおかしいと彼女たちも首を傾げていた。
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