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13.停学処分

徹頭徹尾胸糞




 たかだか平民を打っただけで停学だなんておかしい、とエレノアはベッドの中で抱きしめられながら思った。


 彼女を見つめるのはフォルツァートの司祭だった。いくつかある大きな教会の中の一つの長であり、エリートと呼んでいい立ち位置にいる男は昔はモテたであろうそこそこに整った顔立ちではあるが、年齢からか体型は崩れて腹は丸い。己の娘よりも幼いであろう年齢の少女と不埒な関係を持つ男には、聖職者どころか人間の大人としての倫理観が無いことが窺える。

 ハロルドが知ったら「なんかすごい偏見だけど、現代のすごくヤバい宗教団体とかにありそう」とか言うかもしれない。彼女の両親はフォルツァートの敬虔な信者として数年前には娘を司祭へと差し出していた。それはある種の虐待でもあったかもしれないけれど、エレノアはエレノアで、それが異常だとも思っていなかった。気持ちが良くて、甘やかしてもらえるのであればそれでいい。流されやすい質でもあったからか、彼女はハロルドたちに近付きながらも司祭の愛人と呼ばれる立ち位置のままだった。


 何かよく分からない嫌疑をかけられて、もしかしたら退学になるかもしれない。そう言われているけれど、教会がそれを許すはずがないとエレノアはたかを括っていた。幼い時から、神を信じ、尽くす自分は特別なのだと刷り込まれていたこともその一因であるかもしれない。

 甘えた声で「相談がありますの。司祭様しか頼れないのですわ……」としなだれかかれば、いつもの通りに「任せておきなさい」と目の前の男はそう言った。だから、エレノアは安心したように目を閉じることができるのだ。


 男は腕の中で眠る少女に向けてにんまりと笑った。

 美しい少女だった。その両親も含めて教会の人間に対する盲目的なところも愚かで扱いやすいと思う。

 美しく、見た目は清楚で夜は娼婦のよう。それは男の理想だろうと司祭である男は笑う。それと同時に、それが理解できぬあたりがやはり子供か、と加護を持つ少年をせせら笑った。



(いくら子供と言えど、この身体を知れば溺れるに違いない)



 強大な力を持つ存在は欲に溺れやすいのだと知っている。ここ数代の者たちは皆そうだった。

 それに、ハロルドという少年は孤児院も併設された寂れた教会の建て直しをする際に小さな女の子を助けていた。その点から見ても、女が嫌いなわけではないだろう。特に、庇護欲を唆る目の前のエレノアのような少女には弱いはずだ。


 妙な勘違いから司祭はこのまま彼女を使うことを決めた。そして、いっそのこと吊り橋効果でもあれば容易に手を出すのではないかと策を巡らせる。

 多少、“ズル”はしていても、エレノアは真面目に学園生活を送っている。この領地で大人しく反省したフリでもさせておけば証拠不十分として、復学は容易だろう。退学などという事態にはなるまい。



(だが、タダで動くのも軽く見られるか)



 少し考え込む素振りを見せて、男はニヤリと笑う。

 ハンベルジャイト家の領地にある一等地には大きな木が植えられていた。先代の当主には「精霊が棲む木ですので」と断られたが、この際それを切り倒して別荘でも建てようか。表向きの外装を教会にしておけば、予算も降りるだろうと算段をつける。

 亡くなった先代と違って、今の当主は娘のためであれば簡単に明け渡すだろう。


 楽しみだ、と男は笑った。


 その数日後、ハンベルジャイト家の当主は言われるがままに精霊が棲んでいる木を切り倒して、それを教会という外装の別荘の建設に使用することにした。美しく、立派な木であったために寄付を勧められたのだ。



「許すものか、我の……!我の木をよくもぉ!!」



 その後、その跡地にはくたびれた格好の10代前半くらいの少女が立っていた。そのモノの緑のウェーブがかった長い髪が、怒りによってブワッと広がる。けれど、棲家である強い力を持った木を伐られたせいでその力は激減していた。ソレが罰を与えようとしたけれど、減った力のせいで碌なこともできず、姿を隠す魔法も行使が難しい。何を訴えてもただの孤児の少女だと思われて邪険にされた。

 わずかに残った木の枝だけを抱えて、泣きながら今まで住んでいた領地を去る。



「うぅ、我は、我は今までちゃんと仕事してきたのに!!」



 今まで良い立地にその木を植えてくれていて、大切にしてもらっていた。その礼として領地に迫る魔物を風の魔法で退治してくれていたそれは力を失ったまま立ちすくむ。

 やがて、酷い、酷いと泣きながら王都の方へと小さな足で必死に走っていった。

かわいそう

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