6.友人
魔物が多い地域であるからこそ、助け合いは欠かせない。
隣で笑うアーロンという少年は狩りを行う上での相棒的な立ち位置だ。父親は魔物との戦いで亡くなっており、母親・弟・妹の四人家族である。ハロルドと初めて出会った時にしみじみと「攫われねぇように気ぃつけろよ」と肩を叩いてきた人物でもある。この辺りでは少ないが、人売り、
奴隷商などに目をつけられたことのあるハロルドは死んだ魚のような目で「分かってる」と棒読みで返した。
そんな彼らが組むことになったのは冒険者ギルドでの再会がきっかけだ。
薬草とボアと呼ばれる猪型の魔物を納品していたハロルドと、ブラックイーグルというこの辺り限定の漆黒の鷲型の魔物を仕留めてきたアーロン。二人はそこで査定待ちの間話していた。アーロンが絡みに行ったともいう。村にはハロルドが移住してくるまで同い年の同性が存在していなかったため、彼にとって同性の友人(候補)は貴重な存在だった。
魔法を使って仕留めていると言うハロルドに、一緒に組んで食糧を確保しよう、なんて持ちかけたのもアーロンの方である。ハロルドが真面目なのは日々の生活を見ていれば分かることだし、アーロンの弟が薬草の見分け方などを問い掛ければ優しく教えていた。そういう場面も見ていたのでアーロンはハロルドが存外世話焼きなのではと思っている。押せばいけるだろうとガンガン行った。
結果的にハロルドは「まぁ、二人の方が安全か」という判断で頷いた。
「それにしても処理の仕方上手いな」
「処理だけ、だけどな。料理は君の方が上手いだろ」
「母ちゃん直伝だからな!」
にっと笑う相棒にハロルドの表情が綻んだ。
この少年二人組は割と食に貪欲だった。それはハロルドが加工して作った調味料などの存在も理由かもしれない。
異世界の田舎には調味料が少なかった。塩なども商人が来てくれなくては手に入らない。砂糖や胡椒などだって運が良くなくては手に入らないものだった。
だったが。
「まさか年中生えてる白い花を煮詰めると砂糖擬きになるなんざ思わねぇよな」
「どう頑張っても食べられたものじゃない木の実を加工すれば胡椒擬きになったのもよかったよね」
「あとは塩っぽいもん見つけたいよな」
植えてる作物は盗まれないし、物物交換もしてもらえる。薬草を植えても荒らされない。作業の邪魔をされない。
それだけでハロルドの行動範囲は著しく広がった。探検ができる状況になった結果、鑑定の魔眼は生きることになった。通常の砂糖やその他調味料の方が質はいいに決まっている。けれど、ある程度値の張るそれを満足がいくように使用することは難しい。
処理を終えると、骸を狙ってスカークロウと呼ばれる砂色のカラス型の魔物が来る。嘴が発達していて、骨でさえ砕いて細かくして食べる。その生息地では遺体の骨すら残ることはないという。
空飛ぶそれにアーロンが弓を引く。自由に空を駆ける己が、そんなものに当たるはずがないとでも嘲笑うようにスカークロウは旋回した。
「うっぜ」
「動き止めた方が良い?」
「だいじょーぶ。当たるから」
アーロンの言葉を聞いて、頷いたハロルドはそのまま獲物を持ち帰る準備をしていた。まるまると太った鴨のような鳥と自分と同じくらいの大きさのボアを担いで歩き出す。スカークロウがそれに向かおうとした瞬間だった。矢はまっすぐに首に突き刺さり、落ちてそのまま命尽きた。
「美味くはないんだよな、コイツ」
少しだけ不満げに唇を尖らせたアーロンだったが、すぐにハロルドに自分も持つと声をかけた。
「山降りてからで良いよ。コイツらしつこいからまだ狙ってくるかもしれないし」
「そうだな」
獲物を持って逃げられたこともあるのか、苦々しげに頷いた。そして、アーロンは軽々と獲物を担ぐハロルドを見て羨望の息を吐いた。
(この細身でこれだけ担げるの羨ましすぎだろ〜!俺の方が体格は良いのにさ)
それでもって顔は貴族のように美しいのだ。危ういったらありゃしない。
村が近くなるまでに数匹スカークロウを撃ち落として、彼らは獲物を二人で持ち直して冒険者ギルドへと向かった。
「お前、よくあんなん軽々持てるよな」
査定と解体待ちの間、そんなことを言うとハロルドは「筋力強化の魔法を使ってるだけだよ」と言ってアーロンを資料室へと連れて行った。指定された資料のページを捲って、提示される。魔法と筋力が結びついていなかったアーロンは少し驚いた。
「多分、君なら割とすぐにできるようになると思うけど」
人間の鑑定は気が咎めるので行っていないハロルドだったが、アーロンが弓を引く時に魔力を感じていた。そのため、なんとなくで言った言葉だった。それが当たっていたことを知るのは三日後の話であったりする。
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