11.騒然キャッスル
いつもは寄りつかない上に、用がある時はしっかりとアポイントを取ってから行動する女神の寵児がいきなりやってきたことで、城内は騒然としていた。木のようなものでぐるぐる巻きにされた少年と平民の少年を連れていることも、いつもとは異質な雰囲気を感じる。
対応を任された文官が、どう見ても必死に感情を抑えているという雰囲気のハロルドに恐る恐る近寄って話を聞くと、「友人が魅了をかけられておりまして、それを解く人の紹介とルートヴィヒ殿下か王太子殿下への面会をお願いします」と淡々と口に出した。
「魅了」という言葉を聞いて文官は顔色を変える。以前にも、そのスキルのおかげで大変面倒なことがあったことを知っている。同時に、目の前の加護持ちの少年が酷く怒っていることも察してか「少々お待ちください!」と走り出した。
「閣下ー!!閣下!!アメシスト侯爵!!多分聖女やらかし案件です!!」
慌てて入ってきた文官にギョッとした顔をしたカーティス・アメシストは事情を聞いてすでに青い顔をしていたのにそれが少し白くなった気さえする。
「わかった。愚息を呼べ。中級までであれば解呪できたはずだ」
「その必要はない」
ちょうど戻ってきたという様子でアンリ・シャルル・エーデルシュタインが顔を出した。後ろには側近の二人も控えている。
「ルートヴィヒもできるからな。あいつの部屋に案内してやれ。あとは、終わったあとに落ち着くように茶と甘いものでも用意しておけ。あとで話を聞きに向かう。エド、ルートヴィヒへの伝令を頼む」
「は」
軽く頭を下げて、エドワードが出ていった。アンリは疲れたようにため息を吐いて、「やっとバリスサイトが片付いたというのに」と愚痴を吐いた。
一方、エドワードからの伝令を受けたルートヴィヒは友人が来たことに喜び半分、友人に手を出されたことにお怒り半分で待機していた。それと同時に、「やはり妖精はハロルドに直接危害を加えにいかなければ放置なのか」などと考えていた。そうでなければアーロンに対する嫌がらせももう少し少なかっただろう。
アーロン本人はハロルドがバチバチにキレるのが分かっているので、自分である程度対処したり教員にチクっている。だからか、ダメージはそこまでない。しかし、ハロルドに近付きたい者たちからそこそこに嫌がらせを受けていた。なお、現在はルートヴィヒも少しばかり手を貸しているのでほとんどないと言って良いくらいだ。
「それにしても、向こうは阿呆なのか?私とて流石にハロルドとやり合いたくはないが」
「おそらく頭の中に脳みそが入っていないのでしょう。私も、アンリ殿下筆頭に敵対したくない面々がついておりますので喧嘩なんて考えられません」
「最終、父上と宰相が仲良くやってくるだろう?もしかして、今までの加護持ちや特殊ジョブスキル持ちが自分達についているから我々との距離感がわかっていないのか?」
特に現宰相カーティス・アメシスト侯爵は手塩にかけて育てていた嫡男、ウィリアムが前聖女からどうしても逃げられないかもしれないと思い詰めて女神の神殿に出家してしまったこともあって、教会側の失態を叩いても良い状況がそろえば力一杯かっ飛ばしていくだろう。現在、ウィリアムの弟が必死にカーティスから学んでいるものの、いつも逃げたそうな顔をしている。「俺は侯爵向いてない……腹芸、無理……」と嘆きながら兄に「帰ってきて!!」と手紙を送りつけている。実際、戻ろうとしたこともあるのだが、彼は前聖女のせいで女性との接触が難しくなってしまったらしく、まだリハビリ中だ。だいぶマシにはなっているが、精神的なものがいつ治るかなんて誰にも分からない。血を残す義務も考えれば、すぐにどうこうはできなかった。
そんなことを話していると、ハロルドが到着したらしい。アーロンと二人で木のようなものに覆われたブライトを担いでやってきた。シュールな光景である。
「エグい拘束だな」
「こうでもしねぇと、俺らの方が危ないんですよ」
アーロンが目をまんまるにしているルートヴィヒに、入学前のエピソードを話すと納得したような、けれど苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
「ベキリー伯爵家も潰すべきじゃないか?」
「まぁ、現状仕事はしているようですので何か粗が見つかった時にでも」
目の前の圧倒的権力者の発言に「偉い人ってコエー」と思いながら、アーロンはハロルドに説明を促した。なお、その前にしっかりと防音のための魔道具を作動させているあたり、エドワードはできる男だった。
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