9.突撃!ストーカー
女神の神殿に関するものをウィリアムにぶん投げたハロルドではあるが、まだエレノアによるストーキングは続いている。それとなく、アーロンがブロックしているせいもあってか、最近彼が目の敵にされていてハロルドは申し訳なさを抱えていたりする。
なお、本人が常にあれこれ動いているわけではないからか、妖精たちもそこまで関わっていないのは幸か不幸かわからないところだ。ちなみに、彼女に関わる聖職者が数名行方不明になっているのは妖精の仕業である。わざわざハロルドたちの着替えの場に忍び込もうとしたり、誘拐をしようと企んだ者は今頃トラウマでまともな思考を失っているか、土の底である。
それはそれとして。
「ハル様ぁ〜?いらっしゃいませんの?」
エレノアの襲撃は続いている。初めこそ、なんとか隠れてやり過ごせたけれど、どんどん居場所がバレるスピードが早まっている。
「なんか、妙じゃないか?」
「あの清楚詐欺?」
外見だけが清楚系なのを揶揄してか、そんなことを言うアーロンに頷くあたりハロルドも割と怒っていたりする。
「最近、あの女に侍るヤツの数も増えている気がするんだ」
心底忌々しいという表情を隠さないのは相手がアーロンだからだろう。的確にハロルドの地雷原でタップダンスを踊っていることにも気がつかないまま、エレノアはハロルドを追いかけ回す。時々ブライトにも声をかける。
「ところでブライト知らねぇ?」
「そういえば、今日家出てから会ってない気がするな」
そんなことを口に出して、ルートヴィヒと合流する。各々がランチボックスを抱えていて、王族のサロンへと入る。権力に甘えてばかりはいけないと思っているものの、「食事くらい静かに摂りたい」とついルートヴィヒに甘えてしまっている。
「なぜか私の名前で公共事業が始まった件について」
「王族の名前使った方が手っ取り早く動く連中がいるらしいよ」
それもそうか、とだけ言って食事に戻るルートヴィヒもルートヴィヒである。彼は初めての友人にめちゃくちゃ甘かった。家で「友人だからといって気軽に名前を貸してはいけないよ?王族だからね?」と長兄に言われたが、「ハロルドなので平気です。ハロルド以外がやってたら殺します」という激ヤバ返答をした真面目で良い子な皮を被った友人ガチ勢には王太子もお腹が痛い。
「ああ、そういえばハロルドに纏わりつく女が聖女と接触していたらしい」
「また、碌なことになりそうにねぇ組み合わせだな」
アーロンが眉間に皺を寄せる。
第二王子の話は知らない上に、過去の聖女の話しか聞いてはいないけれどそう思わせるあたり、近代の聖女はやらかしまくっていた。一応、過去にはその名に恥じぬ能力と精神性を示した人もいたそうだ。国歴史ではしっかりとそこらへんも習う。けれど、先代の隣国の聖女は男を侍らしまくって国をしっかりと荒らしてから我が国に留学と称してやってきて、ウィリアムを筆頭に高位貴族の顔の良い青年を追いかけまくった。結果として修道院に逃げ込んだ者、家から出られなくなった者、信者となった者。彼らの世代もすごく乱れた。
そういうわけで、彼らの中での聖女の評価はこんなものである。
「なんで近代の聖女は男好きなんだろうね」
「それを言うなら、なぜ勇者は女好きなのかも論じなければならんぞ」
「勇者は歴史どこ見ても女好きっぽいからな」
呑気にそう言う三人が食事を終えても、ブライトが来ることはなかった。怪訝に思いながらも午後からの授業があるため教室に戻る。時間のギリギリになって戻ってきたブライトの雰囲気にハロルドは首を傾げた。
(なんか、目が虚ろっていうか……?)
いつもより静かではある。ただ、それだけでもない、妙な感覚があった。
授業が始まるとそちらに意識を移す。授業の終了後に話しかけようと思うと、彼はハロルドが話しかける前に去っていった。
少し時間が経って階下を見れば、エレノアと一緒に談笑しているブライトが目に入った。
どういうことだ、と目を細めた。
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