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8.教会落差




 その日はものがなかったし、ハロルド自身も混乱のあまりにも自分のスキルの存在を忘れていた。バレることを恐れてはいるので忘れていて正解だったかもしれない。

 そういうこともあって、翌日、学校終わりにアーロンとブライトと一緒にボアを仕留めてから向かった。

 あんまりにもあんまりな惨状だったのでルートヴィヒに「加護持ちって手当ついたよね?」と確認を入れてしまっていたりする。ついている予算にドン引きしながら軽く説明を受けてルートヴィヒの名前を使っていいかも確認をいれる。「ハロルドなら悪いことはせんだろう」と了解を得て、もしもの時はルートヴィヒの名前で寄付してなんとかしようと考える。同時に、ハロルドは自分で聞いておきながら「それでいいのか、王族!?」と思った。


 そんなわけである人物にお伺いを立てれば来るというので、例の教会を集合場所にしていた。

 集合場所に辿り着くと、その人物もまた唖然としていた。



「これはもう、建て直し。建て直ししかありませんね」



 白銀の長い髪は後ろで一つに束ねられている。ハロルドたちが後ろにいることに気が付かないのか、騎士のような格好をした人間と一緒に「子供をこんな環境で育てることは許されませんよね」と言い合っていた。一応、この教会についての調査もお願いしていた人物だ。



「アメシスト様、お久しぶりです」



 神官の服を纏った青年に話しかけると、ウィリアム・アメシスト、現宰相の子息である彼は少しだけ驚いたような顔をしてから笑顔を浮かべた。



「お久しぶりです。ハロルドくん」



 にこやかに笑いかけてくるウィリアムの手は震えている。相手がハロルドだから笑顔を作っているが、中央からは少し離れているとはいえ、王都にこの惨状の教会があるなんて信じられることではなかった。



「手紙を頂いた件ですが、こちらに任せていただくことは可能でしょうか?ええ、再建も含めまして色々と」


(怒ってる気がするな、これ)



 おそらく自分と同じように唖然として立ちすくんだのだろうな、と苦笑した。

 それでとりあえず、最悪第三王子ルートヴィヒの名前を使った公共事業として、加護持ちに付けられた予算でやろうとしていることなどを少しコソコソと小声で話すと、それも含めて検討すると返答を頂いた。



「ハロルドくん、それでこのボアどうしたらいい?」


「捌いて大鍋で料理する。野菜もこれに詰めてきた」


「そのでけーリュック、野菜が入ってたのか」



 ちなみに鍋はウィリアムが持ってきてくれている。炊き出し用のものだそうだ。

 ウィリアムは騎士たちと炊き出しの準備を始めている。この間の女の子がカゴを抱えて近寄ってきた。中にはまた花が入っている。



「おにーちゃん、また来てくれたんだ!」


「うん。こんにちは」



 にこにこと嬉しそうに花を差し出す女の子に「また同じ値段でいいかな?」と問いかけて、女の子が頷くとお金を渡す。ヘロヘロのシスターはそれでも走り回る男の子に「今日は、今日はお行儀よくなさい!お客様がいらっしゃるのですよ!!」と息絶え絶えに叫んでいる。



「シスターはね、じぶんのご飯もわたしたちにくれるの」



 女の子は笑顔ではあるが、ウィリアムはゾッとしたような顔になっている。保護する大人がいなくなった後の教会のことを考えたのかもしれない。そうなれば十中八九碌なことにならない。子供を食い物にする人間は少なからずいるものだ。自分たちも知らぬ間に彼女が亡くなれば、子供たちはどこに報告すればいいのかすら分からないかもしれない。

 しかし、同時にそうでもしなければ子供達を食べさせることができないのかもしれないというのも問題である。彼女の言葉通りであれば、シスターが子供たちに自分の食糧を分け与えてなお、子供たちはひどく痩せている。


 とりあえず、全員で炊き出しと食料の寄付をしたところ泣いて喜ばれた。周辺の家のない人々も集まってきたあたり結構闇が深い。



「腐れ聖職者共め、覚えてなさい……」



 小さい声だというのにその気迫のせいかよく聞こえた。ウィリアムは言われた瞬間から人を出して調べた。一日と経たずに近くのフォルツァート系の教会がこの教会の分の金銭をパクっていたことが発覚した。配分する聖職者による立派な横領である。

 似たようなことが各地でも起こっているようだが、少なくともウィリアムの周囲では宰相による介入を恐れたのかおとなしくしていたために気がつくのが今になってしまった。これは許されざることである。



(この国には元々、唯一神という概念はありません。信仰する宗教にもある程度の自由がある。だというのに異教徒故に格差はあって当然などと、聖職者の風上にも置けないクズめ)



 色々あってフォルツァートアンチのウィリアムはよりフォルツァートとそれに群がる信者が嫌いになっていく。

 その一方で、周囲と相談の上で動いてくれる我らが女神の寵児の善良さに感謝した。

 なお、ハロルド本人は「子供はできるだけ元気であるべき」としか思っていなかった。

人名被りが発覚したので宰相の名前を変更しました。


ハロルドは一応「国の所属であればこれだけ自由にしてもいい予算がつけられているよ」と最初に説明は受けている。でも「税金だからなぁ」と思ってそこからのお金は使っていない。安全に関する費用はまた別で分配されてる。


いつも読んで頂き、ありがとうございます!!

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