表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/495

7.フォルテの教会




 新しくできるとはいえ、郊外に建つその教会はまるで、というかまるっきり廃墟だった。


 フォルツァートの信者だとか、神の意志に従ってハロルドの妻になるだとか、意味のわからないことをほざくエレノアに付き纏いを受けているハロルドは相手が貴族であることも踏まえて姿を隠しながら生活をしていた。

 最近では街中にも出てきて軽くホラーだ。ストレスが高すぎるのか、苛立ちで魔法の調整ミスなども起きている。


 今日も、久々に美味しいパン屋のサンドイッチを購入しようとたまたま一人で歩いていたら見つかった。一応護衛はついているものの、街中では出てもらいにくい。向こうも直接彼を害そうとしてきているわけではないから余計にだ。妖精たちが静かにしているのも今のところ、襲って来ようとはしていないからでもある。家には辛うじて来ないが、もしかしたら内通者でもいるのではないかという疑惑もある。アーロンのことを無視しつつもちゃっかりブライトにしなをつくる様子も見ている。嫌悪感しか増えていない。

 ハロルドは死なないためにともらった加護で目についてしまっただけで、立場的にはアーロンと同じ平民だと思っている。あの様子と神の名を大々的に出すことから、彼女はハロルドが女神の加護を得ていることを知っているように感じた。

 教会やらフォルツァートの信者がやらかしている気がする。


 不本意ながら逃れるように道を外れれば、少年が籠の中に花を入れたものを抱えている少女に石をぶつけていた。見逃すのも寝覚めが悪いと注意をすると思いっきり舌打ちをしてきて「躾がなってない子だな」と思い切りスンとした表情になった。美形の表情の抜け落ちた顔がよほど怖かったのか、小さく悲鳴を上げて立ち去った。



「大丈夫?」



 声をかけると、少し怯えてはいたけれど彼女は静かに頷いた。か細い声で「お花はいりませんか」と尋ねてくるあたりに謎のガッツを感じる。



(いや、格好からして困窮してるからか)



 いくらこの国が比較的平和な部類とはいえ、領地や場所によっては魔物の被害なども大きい。それによって親を失う子もそれなりにいる。そうなれば生活は転げ落ちる一方だ。気がつけば何もかもを失って路地裏に転がっていることも多い。


 祖父母がいなければ他人事ではなかっただけに、ハロルドは「いくら?」と尋ねて買い取った。少し萎れた花ではあったけれど、ホッとした様子からみても売り切るまでは帰りにくいのかもしれない。

 あざのできた顔を見て顔を顰める。回復魔法は使えなくも無いが、ハロルドではルートヴィヒほどの力はない。それでもやらないよりはマシか、と少女に了解をとって魔法をかける。



「いたくない!ありがとう、おにーちゃん!!」



 感動したようにそう言ってにっと笑った彼女の姿に、ハロルドはどこかホッとしたような顔を見せた。自分よりも小さな女の子が苦しそうなのは精神的に堪える。

 また乱暴な子供が来ないとも限らないと家まで送ると言えば、彼女が案内してくれたそこが、冒頭の廃墟である。

 唖然とするハロルドが手を引かれたその先には一応女神像が安置されていた。そして彼らを見つめるシスターが居るがその服もつぎはぎだらけであるしボロい。付け足すとそこに居る子供たちもシスター二名も鶏ガラ系だった。



「もしかして、ここフォルテ様の教会か……!?」


「そうだよ」



 幼女からの言葉にさらに唖然としてしまう。

 教会は床に穴が空いているし、雨漏りの跡もある。王都を歩いていれば見つかるフォルツァートの教会を知っているだけに言葉を失った。王都にある教会を新しくするとは言っても、すでにある教会がこれはいただけない。シスターも子供も栄養が取れていないのかガリガリなのはもっといただけない。



「食事を作ろう」



 食べさせなくては、という謎の使命感を持つ。それは前世の人格からくるものなのかもしれない。

 それなりの数の子供がボロボロの服とガリガリの姿であることに彼は耐えられなかった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ