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6.フォルツァートの信者




 新学期が始まって、相変わらず三人は連んでいた。一緒に住んでいることもあってか、一緒にいない時の方が珍しい。なぜかそれを三角関係だのなんだのと揶揄してくる人間がいるのだが、ブライトは「僕たちの顔が良すぎるんだよ」とキュルルンとした顔で言ってのけた。確かにブライトは可愛かった。随分と腐り切った噂だな、と思わなくもない。だが、子供は両親の言っていることを本当だと思って外でも口に出すことがあるので、身近な大人がそういった発言をしているのだろうと見当をつけた。



「俺たち、そんなに距離が近いかな?」


「まぁ、一緒に住んでるからそれなりには近いでしょ」



 溜息を吐く友人二人にアーロンは苦笑した。彼も割と巻き込まれている自覚はあるけれど、ハロルドほどではないのでなんとか我慢できている。


 昼休憩にルートヴィヒと合流しようと教室を出た彼らに待ち受けていたのはとある少女の襲来だった。

 白銀のような髪が揺れる。紫色の宝石のような瞳がたった一人に向けられた。楚々とした雰囲気を身に纏い、穏やかに微笑みかける。どこか庇護欲を唆る、美しい少女にハロルドはとある女性を思い出して眉を顰めた。



「わたくしはエレノア。エレノア・ハンベルジャイトでございます。ハル様」



 初対面の相手を愛称で呼ぶ少女を一瞥して、ブライトに目を向けると彼は小声で「ナシだよ」と答える。

 家名があるということは貴族の出身のはずだ。だというのに、するりと側に寄って腕を取ろうとする行為は、はしたないといえるのではないだろうか。ハロルドも他の貴族子女も見たことはあるけれど媚びるように異性に触れる者はいなかった。



(俺が嫌いなタイプの女だ)



 触れて来ようとするエレノアをひょいと避けて、「行こうか」と彼女をスルーしようとしたハロルドにエレノアは「待ってくださいまし」と声をかける。

 初対面であるのにすでに好感度はマイナスに行こうとしているが、一応話は聞いておこうと振り返る。その目が冷え切っているのを見たアーロンとブライトは同年代の女子に向けるには珍しいそれに口を噤んだ。



「わ、わたくしはあなたの妻になる者ですよ!?」


「失礼ですが、どなたかとお間違えでは?私はただの平民。貴族との婚約など現実的ではありません」


「ふふ、照れておられるのですね?わたくしにとってあなたは特別な方。この身はあなたとフォルツァート様に捧げられしもの。触れてみても、良いのですよ?」



 媚びるような目線に今度こそため息を吐いた。やっぱり嫌いだな、以上の感情が出てこない。神も神なら、信者も信者だと白い目を向ける。



「なかなか来ないと思えば、妙なのに捕まっているな」



 絡まれている間にそれなりの時間が過ぎていたらしい。ランチボックスを抱えたシュールな姿で第三王子ルートヴィヒが呆れたような声で出てきた。



「行くぞ」


「お待ちください!まだ話は」


「その話は私との昼食よりも大事な話か?」


「いえ、全く」



 即答したハロルドに、「だろうな」と返してルートヴィヒはいつものサロンに三人を連れ込んだ。取り残されたエレノアは考え込む。



(話が違うわ。それにしても、わたくしの話もまともに聞けないの?平民なのだから素直にわたくしに従えばいいのに!異教徒が生意気ですわ!)



 美しいはずの自分を歯牙にもかけぬハロルドの様子に苛立ちもする。けれど、それを表に出すことはできないと少しだけ残念そうな表情を作るにとどめた。

 けれど、それをみていたハロルドに助けてもらったことがあるFクラスのメンバーは冷え冷えとした目を向けた。ハロルドがあのような態度を取るからには“何か”あるに決まっているというような表情だ。


 実際、相手がフォルツァートの信徒ではないからと彼女はハロルドのことを甘くみていたし、教会の人間もそうだ。普通の少年であれば美しい少女にちやほやされるのは悪い気はしないだろうと調査を怠った。

 ハロルド自身にも自覚はあるが、彼は欲の籠った媚びた瞳が苦手だ。母親を思い出すからだということもわかっている。そういった目を向けられると途端に「嫌い」だという方向に感情を振り切ってしまう。とことん悪手だった。

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