19.調査結果
「勇者様の言った通りの場所に、神殿らしきものが『埋まっている』ことが確認されました」
斥候の報告を聞いた後、部隊に戻らせると、アンリは考え込む素振りを見せた。
冥神セルピナがどういった神であるかはわからない。だが、フォルツァートの気が短いことは歴史上起こっていることからも明らかだ。
「ブライトのことやフィアンマ帝国の女帝の怒りようを考えれば、先を急ぎたいが……よりにもよってフォルツァート神が口を出して来るとは」
一番面倒な神が出てきたことに、舌打ちでもしたい気分だ。
かといって、ここで無視をしてこの土地がバリスサイトの二の舞になるのも国家間の関係を悪化させることになるだろう。このラムル王国とは良い関係でいたいと考えている。それは、互いに。
薬学に力を入れるこの土地ではハロルドの存在がかなり大きい。彼がいるというだけで、ラムル王国の一部の存在は友好的になることを痛いほど実感していた。
「まぁ、フォルツァート神の名を出せば、ある程度の状況を理解してもらえるだろうが」
「問題を起こすことにも定評のある神ですからね」
ダニエルの言葉を聞いたアンリは「頭が痛い」と呟いた。
実際、周囲の調整や花香へ辿り着く日程の変更の依頼など、少しばかり手間取る可能性が高い。それでも無理を通せると踏んでいるのは、ハロルドのスキルのおかげで予定よりもだいぶ早くイラージュに辿り着いたからだ。
「それで、警護については考え直してくれたか」
「いいえ。他ならぬ神子様より『胃が痛いからやめてほしい』と言われています。そして、代わりを呼び込んだとか」
「現地で?それは信用できる人間なのかい?」
「いえ、本来神子様が使おうとしていた手段でラリマー嬢を呼んだそうです」
知っている聖騎士の名を聞いて一瞬安心した顔になったアンリは、しかし、「令嬢を呼び出して、ハロルドの名に傷はつかないのか……?」と言い出した。
「もう一人、女性の魔法使いもいるので、その警護に見えるだろうと」
「確かに、全て男で編成された部隊というわけではないが……」
「ラリマー嬢ならばはっきり言って俺よりも余程強いですし、心配はいらないのでは」
「おまえがそういうことを言っていると知れば、騎士団長も頭が痛いだろうな」
「実力が理解できていて結構、と言うと思いますよ」
ダニエルはそう言って肩を竦める。そして、心の中で父親に言われるだろうありとあらゆる嫌味を考えて少し嫌な気分になった。
とはいえ、実際、聖剣に認められるような埒外の才能を持った『剣姫』に勝つことは容易ではない。ラリマー家をライバルだと思っている父親は、すでにダニエルよりも孫に期待を寄せている。
「おまえは強いのにな。私はダニエルがラリマー嬢より弱いとは考えていない」
「おっと。なら、期待に応えられる程度には頑張らないといけませんね」
そう言ってダニエルは笑顔を向ける。
もうただの幼馴染には戻れないが、こういった信頼関係を築くことができたのは彼にとって幸いだった。
しかし、そんな相手でもあまり気づかれたくないことはある。
(ヴィクトリア嬢の存在には、帰るまで気づかないでいてほしいものだな……)
王太子主従は、それぞれに胃が痛かった。




