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4.秘密の小庭




 外から見えないように魔法がかかっているとはいえ、せっかくの庭付きの家だ。

 ハロルドは気合を入れて耕していた。すでにどこに何を植えるのかをリリィと真剣な目で話し合っている。



「ここはお花の区画!!絶対!!絶対お花はいるのぉ!!」


「そうだな。魔法薬にも使える花だとなお良し」



 ハロルドの言葉に非難の声を挙げるリリィを見ながら、アーロンは「ハルのおもちゃが増えた」と苦笑した。なんのかんの言いながら、ハロルドは薬効がなくても「育てるのが難しい」なんて聞けば面白がって植えてみるタイプなことを彼は知っていた。その結果が彼の頭の上やら、ハロルドの肩の上やらにいる妖精たちである。自由気儘な彼女たちは、相変わらず友人に注文をつけていた。なお、「俺が育てたいものを育てればいいんだろう?」と微笑まれると彼女たちは負ける。



「確かに言ったぁ!!」



 悔しそうな顔をしているリリィの隣で鼻歌を歌いながら鍬を振るう。

 耕した後に野菜・薬草・花の区画を決めるとそれだけで1日が過ぎる。アーロンとブライトはそんな1日を少し勿体無いように感じるけれど、ハロルドは現在懐にそこそこの余裕があるためにイキイキと農作業に勤しんでいる。



(うーん。とはいえ、錬金術の本にある魔法薬やら魔道具作るのなら素材を狩りに行きたい気持ちはあるんだよな。貯蓄なんていくらあってもいいし)



 店を覗けば、ハロルドたちが狩りに行ったものの素材がエラい値段で売られているケースもそこそこある。そこまで強くない魔物でも、戦うことができない人間からすれば買うしかない。それが討伐難易度の高いものになっていくとさらに値段は上がる。とても手を出せない。

 薬草なども育成・採取の難易度が高ければ高いほど値段が釣り上がる。適当に植えてわっさわっさ生えてきた薬草の一部はそういったものだったらしく、気をつけるようにとアシェルに言われてしまった。



「ハル、明日もそれやんの?」


「明日は種を植えて水を撒くくらいになるかな。なんか、植えて欲しいって頼まれている種もあるし」



 アンリがどうしてもと送りつけてきたそれは、若干季節外れではあるけれど、代わりに思ったよりも広い庭の一画に立派な温室を用意してもらっているので文句はない。なお、ハロルドたちが王都を離れる際はアンリたちが手配した人間が面倒を見てくれるらしい。



「俺が面倒見れない時は直々に部下を選出して人を寄越す、とまで言ってるから断れなくって」


「ああー……。どこぞのクソ王族とは違うもんな。うちの国の王族」


「隣国、今流行病ですごいことになってるらしいよ。治癒師を貴族で抱え込んで、それでもその人数にも限りがある。薬を作ろうにも薬草や薬師が足りずにてんてこまい。貴族でそれだから、治療をまともに受けられない平民は言わずもがなって感じ」


「前回の聖女ヤバかったらしいぜって話しようと思ったら、現在進行形のヤベー話が出てきた」



 アーロンは思い切り嫌な顔をしている。

 伝染する病気であるのならばそのうち広がって、この国にも入ってきかねない。特に彼の妹はそんなに身体が強くはない。心配もあるし、ある意味では仕方のない反応だろう。そして、その国の呼んだ聖女のおかげで優秀だった侯爵家の嫡男が逃げざるを得ない状況になったりもしていたのだ。その他にも被害は出ていて、隣国はそれを知っても対処ができないエーデルシュタインが悪いのだと言った。現在もエーデルシュタインの薬草を必死に買い漁っている。国内である種類のものだけがなくなれば、嫌でも気付くというものだ。すでに制限がかけられて、国内に必要になるかもしれない量を確保にかかっている。



「ああ、それでなんかすごい栽培難しいらしい薬草の種をたくさん渡されたのか」



 スッキリした、という顔でハロルドが頷いた。仕事のしすぎでいつ倒れてもおかしくなさそうな王太子の頼みだったので受け入れたけれど、理由がわかった方がやる気も出る。やっとバリスサイトの件が片付きそうだというのに可哀想な話である。



「でも、水やるだけでも大変な規模じゃねぇか。大丈夫なのか?」


「うん。夏休みの間に特訓したから魔法の水だったら結構繊細なコントロールができるよ。それに、体調が悪い時はネモフィラも助けてくれるだろうし」


「ボク、得意」



 表情はあまり変わっているように見えないのに、なぜかドヤ顔をしているように見える。

 ちなみに、土魔法もそこそこ精度は上がっているけれど、火の魔法はまだえげつない火力のままだ。そこはやっぱり少しずつなんとかするしかないのだ。

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