3.悪夢が終わる時
ルートヴィヒに王家から用意された家の地図と鍵をもらったハロルドは寮ではなく、学園近郊の家に入る。庭もあるので薬草や野菜を育てるのも良さそうだと頬を緩める。ストレスが多いので、土と語り合う時間があることは彼にとって嬉しいことだった。アーロンも一緒に住むと聞いたブライトが地面に寝転んで手足をジタバタさせて「ヤダーーー!!僕も!!僕もここ住むぅ!!」と幼児のような暴れ方をしたのを除けば平和である。きちんとスキルをコントロールできるようになっていなければ許されない所業である。結局「家族は説得した!!」などと言って荷物を抱えてすみつくことになった。
「まぁ、ブライトいた方がだいぶ安全だしな」
アーロンの言葉に苦笑しながら頷いた。とはいえ、ブライトに危険なことをさせるつもりもない。ただ、彼自身も家族から疎まれているらしいので、友人と一緒に住むのも悪くはないなと思った。
荷物を置いてからルートヴィヒに渡された手紙を読んだハロルドは、なんとも言えない顔をする。
「あそこ、バリスサイトだったのか」
関係ないどころか当事者だった。
エドワードに送った肥料はやたらと効果が高かったと聞いてレシピを送ったのも喜ばれたようだ。その後使用すればそれなりの効果が得られたらしい。けれど、ハロルドが作ったものの方がジョブスキルが原因か、緑の手が原因かは不明であるが効きがいいらしい。「気をつけてくれ」と書かれたそれは年上の青年らしい気遣いを感じられた。
このままいけば、元のようにとはいかなくとも、それなりの収穫量が見込めそうだ。そのことを心より感謝する。
そう書かれたのは王太子アンリからの手紙だった。おかげで仕事が片付きやすくなったらしい。これからは王都で過ごす時間も長くなるため、何かあれば相談に乗ると書いてあって「良い伝手を得た……のか?」とちょっぴり首を傾げた。
最後に一番「なんで手紙貰ったんだ?」と思うアンネリースからの手紙を開く。
元気いっぱいな字で少し笑い声が漏れた。側妃である母親と一緒にどうすれば作物が育つのかを彼女なりに考えているようだ。出会った時のように彼女のスキルでニョッキリと麦を育てた時は、次の作物にはスキルが通用しなかった、なんてことまで書いてある。
『けれど、その後に土に元気になりますように、と心から願って治癒魔法をかければなんとか芽が出るようになったのです』
その一文にドヤ顔をしている様子が目に浮かんだ。
何はともあれ、不毛の地と呼ばれた土地は元に戻ろうとしているようだ。知らないうちに手助けをしていたようだが、悪夢はこれで終わるのだろう。
悪いことをしたわけでも悪影響が出たわけでもないので、ハロルドは「終わったことだし、まぁいっか!」と頷きながら返事を書くために筆を取った。
少し離れて、バリスサイトでは森が復活しようとしていた。
かつてエルフ族が住んでいた場所ではあるが、主神の八つ当たりによって枯らされた森はハロルドの送った肥料の一部や、王太子たちが頑張ってしこたま生産した肥料などを必死にばら撒いて、土魔法が得意な魔法使いが数日かけて魔力を込めて、最後にわんぱくなお姫様が植えた木を少しずつニョッキリと成長させてくれたおかげで元の姿を取り戻しつつある。
ハロルドについて行った妖精たちがふらっと立ち寄って、ハロルドたちが倒した魔物から取れる魔石と呼ばれる魔力の結晶を投げ込んだおかげか聖なる泉も復活しそうになっていた。森を諦めきれず、王太子たちと一緒に研究をしていたエルフたちも涙を堪えきれない。
「ハル様はね、女神様に助けてもらってるんだって!!」
だから、女神フォルテの信仰を増やしたいのだと語っていた。
そうわんぱくお姫様、アンネリース・アビゲイル・エーデルシュタインが一緒にいたメイド服を着用するエルフ族の少女にそう言えば、「ではここに、神殿を建てましょう」と無表情で頷いた。
「神殿?」
「はい。女神殿を、どデカいのを創りましょう」
「王都でもさいけん?とか言ってつくってるのだけれど」
「神殿なんて幾つあってもいいですからね」
メイドエルフがいう言葉にエヴァンジェリンは「そんな適当なことを……」と苦笑していると、現在の長老である妙齢の女性に見えるエルフが「それは良い!!」と大きな声で賛成する。人間たちの時は止まった。
「我らの美しい森や泉を枯らした腐れ邪神なんぞ祀ってたまるか。二度と信仰なぞせんわ!!妾はここに!女神殿を建てる!!」
「泉には昔のように精霊様をお祀りいたしましょう」
「楽しみが増えたのぅ!!」
フォルツァートの所業とハロルドの「俺が褒美とかもらうと目立つから嫌だな。女神の手柄にでもして信仰増やすか」という雑な考えが、新たな女神殿と女神信者を増やすことになった。
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