25.祈りとそれに応えるモノ
ブライトたちは呑気なものだが、エーデルシュタイン王国としては臨戦体制に入っていた。
東宮が友好的で、民を思って頭を下げたからこそ、さっさと国に帰すだけで済ませたのだ。
それが、自国の民に危害を加えてくるならば話は違ってくる。
国が許されたのではなく、東宮が許されたのだとは理解していなかったらしい。戦争にならないように、彼はきちんといくつかの取引をして引き上げたのだ。それを無に帰すような行いである。
加えて、フィアンマ帝国の要人まで連れて行ったのだ。
どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
「あの東宮も、まだ甘いねぇ。うちの兄たちならその場で犯人の首を切って詫びるくらいするよ」
「王太子殿下の苛烈さならやりかねませんわね。正直、殿下が無事なのが奇跡ですよ?」
「あっはっは!私は役に立つから見逃されているだけさ!あと、めちゃくちゃ悪いことはしないしね」
「いえ。役に立つのはそうですが、アデニウム様はこちらの神子殿とお友達になったのが大きいでしょうね」
「それはそう」
婚約者であるモナの言葉に、ラムル王国の王子アデニウムは手に持ったカップに口を付け、ゆっくりと息を吐いた。
愚かなことだ、と思う。
ラムル王国の医学、薬学は進んでいる。しかし、この国も急速に追い上げてきた。加護を得たハロルドがもたらしたのは薬草だけではない。
「あれが本来の加護持ちだ。自身の周囲にも影響を与える神の力。本人が神に気に入られているからこその効果だろう。歴代の厄介な加護持ちのせいで下がっていた国力も回復している」
「ええ、このようなことはなかなかありませんわ」
二人はのんびりと話しながらも「どうしようかな」と考えている。少し呑気なのは自分の国があまり関係ないせいだ。
「使者を出して、敵対しないようにだけ誘導しておいた方がいいかな」
「絶対戦いたくありませんものね。なぜ、あれだけの相手に喧嘩を売れるのかしら」
モナが不思議そうにそう口に出すと、アデニウムは苦笑した。
花香からは魔力が失われつつある。大地からも、空気中からも、あらゆる物質からそれは奪われつつある。そうやって育ってきたのだ。恐れる心すら、育っていないだろう。
「神に呼ばれているのなら、きっと彼は出なければいけなくなっているだろうね」
そうなれば、何が起こるかなんて分かり切っている。
少なくとも、神の怒りを知る人々は。
「近く、人は。神の怒りを知るだろう」
それを見たいとは思わないけれど。
誰も望まないだろうけれど。
けれど、圧倒的な力を持ち、人にはおよそどうすることもできない存在が『神』なのだ。
アデニウムを含めた、彼の知り合いにできるのは、どうか彼の心が守れますように、とささやかな祈りを捧げるくらいである。
そして、彼の信じる神はハロルドに加護を与えているため、その祈りを聞き取って頭を抱えた。
「何をやっているんだ。あの駄女神……!」
医神アルスはこうしてはいられない、と動き出した。
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