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5.新生活




 祖母が昔暮らしていた村に移住してきたハロルドたちは、思いの外、気が楽でむしろ困惑していた。確かにより田舎に来てしまって、魔物は出るわ商人が来る頻度はもっと少ないわで、ある意味では不便かもしれない。だが少なくともこんなところにハロルドの両親は絶対に来ようだなんて思わないし、両親の訪問がなさそうというだけで人間関係が楽になるのでほっとしている。ハロルドの持ってきた薬草類はこちらでとても歓迎された。問題は急いで前の村を出てきたために、金銭に少しばかりの不安があることだろうか。


 特に贅沢をしているわけではないが、移住してきたハロルドたちはまだ畑を作れていない。作るにしても種を蒔いてすぐに作物が取れるわけではない。栽培していた薬草もそうだ。すぐに収穫量が安定するわけではない。

 となれば、肉類は自分たちで確保したかった。しかし、弓はそもそもそこまで得意でなかったのに、今はもう居なかったことにしている元母に捨てられてしまい、そこから練習もできていない。ちまちま罠を仕掛けてもこの地域に出没するのは以前いた村よりも大きめの魔物が中心だ。兎などはそれらの餌になっていてなかなか見つからない。


 悩みながら解決法を探ろうと冒険者ギルド内にある冒険者用の資料室で狩りの方法を探る。文字を習わせてもらえてよかったと領主に少し感謝した。

 資料の中に魔法を使った狩りの仕方が載っていた。ハロルドの異空間収納も一応は魔法の一種である。これは使えるかもしれないと思った。賭けてみるか、とハロルドは空き地へと足を運んだ。



「えーっと、確か……」



 右手を出して意識を集中する。そして、イメージをする。魔力を可燃物とし、空気中の酸素、そして反応を起こすのに必要な熱。化学の教科書にも似た資料に書いてあった通りに反応させる。



「火よ」



 一瞬、それなりの大きさの火が出て焦ったハロルドは慌ててそれを消した。そして周囲を見まわして、誰にも見られていないことに安心して一息ついた。

 それから小さな火をイメージして、それが成功したため、余力があるか考えながら少しずつ試していった。

 日が暮れる頃にはしっかりと家で祖父母と晩御飯を作る。絶対にあの両親と同類だと思われたくないのもあって、祖父母の前ではとても良い子の仮面を何重にも被っている。

 二人が寝静まってから布団の中でハロルドは思案する。火は毛皮や羽根も焼いてしまう可能性があるので基本的には金銭的なことを考えれば狩りには向かない。ハロルドが目をつけたのは氷と風だった。明日からまた練習をしようと脳内で段取りをつけて、目を閉じた。


 眠ったらそこはフローラルな空間だった。

 あたり一面、花・花・花。



(夢だな)



 一瞬でそう思えるほどファンタジーな空間だ。どうすればいいのかと思っていると、「佐藤晴」と感情を押し殺したような声で前世の名前を呼ばれた。

 振り返ればそこには、クリーム色の長い髪、垂れ目気味な青い瞳の女性がいた。目の下の泣きぼくろがセクシーだ。凹凸のはっきりした女性らしい体つきをしている。神話の神を彷彿とさせるその服装に見覚えがある。



「あ、女神様だ」


「女神様だ、ではない。二大神の片割れだぞ。私は。崇めよ、奉れ、平伏せよ」


「あ、俺あんまり安全安心生活送れてないので信仰心薄いです」



 どこか呆れたように話す女神にハロルドはにっこりと笑顔でそう告げた。



「私はこれでもあの主神とか言われている、見る目もクソもない男より随分と親切だぞ!それに私はあの愚神と違って召喚魔法なんざ許さぬし、何なら後始末までしているというのに!どうして信仰しない!!」



 この世界の住人は、だからこそ主神という男神の方を信仰するのだろう。そこに思い至ってハロルドは苦い表情をした。人間という生き物は便利なものに流されることが多い。何かあった時に助けてくれるのは主神。そういう扱いなのだろうと察しがつく。要するに異世界人や転生者は彼らが安全を確保するための駒なのだろう。

 ただ、ハロルド的には巻き込まれて死んだらしいこともあってか女神の方がまだ信仰してもいいかなという気持ちである。


 夢の中にハロルドを呼び出したのも、男神の余波でまた割を食っていたのを見かねてということらしい。何が余波なのかわからず首を傾げるが、最悪の事態にはならないようにと加護をつけにきたというのでそこは有り難く受け取ることにした。意外に手厚い。好感度が上がった。



「それにしても、男神の巻き込み事故って結構多そうですね」


「多いわ。頭が救えなさそうな人間は輪廻に戻らないまま消え去ればいいけれど、まともな人間をそのままというのも気が咎めるでしょう?」



 女神的には才能があろうが何だろうが、迷惑になりそうな奴は要らないようだ。自分は毒にも薬にもならなそうだからあんなに強引に連れ込まれたのだろうか。そう思うくらいには女神は愚痴だらけだった。



「いい?私、女神フォルテのことをちゃあんと信仰するのよ!!」



 信仰すればするほど、最悪からは遠のくのだと女神が言うのでハロルドは頷いた。これ以上に何か巻き込まれるなんて洒落にならない。10歳にして修羅場を見た彼は少しくらい神にも縋りたい気持ちになっていた。孤児になるよりはマシ、という話ではないのである。

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