1.再会と面倒事1
再び王都へとやってきた三人はすでに疲れ切っていた。
馬車で移動する人間がこの間のメンバーだと気がついた妖精たちは、みんなが馬車に乗った瞬間に魔法をかけた。
人間の使うそれとは違うのか、ある場所に簡単に転移させられたハロルドたちは、現れた瞬間に周囲を兵に囲まれることとなった。
そう、その場所とは王城だった。
槍を四方から向けられて真っ青になったハロルドたちは、たまたまそこにいた友人であるルートヴィヒによって助けられて九死に一生を得た。彼がそこにいたから、そこそこ警備が厚かったともいう。最近のルートヴィヒは聖女とされる女と遊び回っている第二王子よりもよほど評判が良かった。おかげさまで暗殺者が大豊作だったので護衛は多かったのである。
「本当、陛下やら閣下には迷惑をかけて申し訳ない……」
「謝ったじゃない!!」
「ボクも」
「ウチも!!」
ハロルドから送られる「反省してなかったんだ?」とでもいうような綺麗な笑顔に妖精たちはウッと詰まった。
ハロルドが監督不足だったと宰相執務室で謝罪していた時も、頬を膨らませてむくれていた。じとりとした「あ、君たちってそういう子なんだ」とでもいうような目を見て、お気に入りの子に嫌われたくなかった三人はちょっぴり焦りながらごめんなさいした。
「人には人のルールがある……とはいえ、人間のルールで生きてないからね。君たちは」
先ほどとはガラリと雰囲気を変えてそう言ったハロルドにスコーンを差し出されてネモフィラは嬉しそうにそれを抱えた。
ルートヴィヒが用意させたお茶会セットは元々は婚約者との交流用であったらしい。そのため、ハロルドが普段街で買うか、手作りしたものよりも大分高級なものである。ちなみに、その婚約者は王城に来て、無言で一杯お茶を飲んで帰った。交流とはなんぞや、とルートヴィヒは思わなくもないけれど、すでに好感度は0どころかマイナスである。「さっさと帰ってくれて嬉しいな」くらいの気持ちだ。
手ずから菓子を渡すハロルドに妖精たちは機嫌を直した。お菓子を頬張る妖精たちを眺める彼に、ルートヴィヒは「ハロルドは人外にも懐かれるんだなぁ」なんて思っていた。他二人は割と慣れつつある。
「まぁ、ここでひと足先に再会できたのは私としては嬉しいし、手間も省けた」
「なんだ……じゃねぇや、手間が省けたとはどういう事でしょうか?」
「ああ、うん。面倒だが、ここは学園ではないからな。理解が早いのはありがたい。友人としては複雑だが」
アーロンの態度にやれやれ、というように首を振る。城の中とはいえ閉じられた場ではないと敬語を使う彼に安心したようにそう話した。その辺りの見極めができないようであれば友人ではいられない。
「ハロルドがな、教会の連中に狙われているようなのだ」
本題を切り出すと、ハロルドは思い切り嫌そうな顔をした。それに対して、何があったかよく知らないブライトが首を傾げている。
「それで何かあるんですか?」
「うん。我が国に滞在している教会の面々は控えめに言っても割と腐っているのだが」
「王子に腐ってるって言われる宗教か」
「実際、手紙ヤバかったもんなぁ」
ハロルドは眉間を揉みながら、溜息を吐いた。
それでも、召喚したという聖女にかかりっきりでしばらくおとなしかったはずなのに、と少し怪訝に思っていると、ルートヴィヒは嫌悪感たっぷりの声で告げた。
「聖女の手綱が握れなくなったらしい」
王家からすればいつものことではあるが、それでも「失敗したから聖女はそっちでなんとかしろよ!あ、加護持ち様扱いやすいんだって?もらってくわ」みたいな態度は許し難い。断固として断る構えではある。
「だからしばらく、ハニートラップが増えるかもしれん」
そんな言葉に、アーロンは思わず「ゴミじゃん」と呟いた。その後すぐにやべ、という顔をして何も言っていませんよというように表情を取り繕った。
アーロンはそんな関連のトラブルこそ、ハロルドが一番嫌うことを知っていた。それは彼自身から両親についての話を聞いていたこともあるし、老若男女問わず自分を狙ってくる人間たちに嫌悪感が増し増しなことも知っているからである。
「ハルが一番嫌うことを進んでやる時点で、向こうに勝ちの目はありませんね」
「アーロンたちにも危害を加えようとしてたから、普通に何があっても向こうにはつかないよ」
「ヤバいねぇ」
こうなっては取り込むことなどできそうにないとルートヴィヒでさえ思うのだが、彼らは王家にできることが自分たちにできないわけがないと思っている節がある。
彼らにできるのは貴重な神の愛し子をダメ人間を超えたダメ人間にすることくらいである。フォルツァートが許しても、先程ハロルドが言ったように人には人のルールがあるのだ。そのルールを破るような真似はしてほしくはない。
ルートヴィヒ自身も、友人には平穏に過ごしてほしいのである。
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