3.噂話
そのまま、温室と畑の世話をして家の中に戻ると、スノウが「ごはん!」と主張をしてきたのを見て苦笑する。
「今から用意するね」
「早く!」
「はいはい」
朝から凝ったものを作るわけではないが、スノウはやけにハロルドが作ったごはんも好きだ。一番はアーロンが作ったものであるらしいが、普通のものしか作っていないのに何故だろうか。
ハロルドは不思議に思いつつ、先ほど収穫したものをいくつか並べると、ペーターが「手伝おうか?」と顔を出した。
「大丈夫だよ。簡単なものしか作らないから」
「でも、準備終わったし手持ち無沙汰でさぁ」
「それじゃあ、甘えちゃおうかな」
ハロルドがそういうと、ペーターは隣に並んで材料などを準備し始めた。
「そういえば、花香の連中、今日出立だったよな。王太子……じゃなくてとーぐうだっけ?連れてきた連中がやらかしたことで賠償とか請求されてるみたいでキレてるみたい」
「まぁ、当人たちはむしろうちの国の援助を受けたかっただろうしねぇ」
花香は今、窮地に立たされている国だ。
作物は育たず、資源も底をつきつつあり、人は魔力も失いつつある。魔力がゼロになる、ということは魔道具の発動もできないということ。現在、魔導具等でようやく生活できている彼らが今後生き延びるには、他国を頼るしかなかった。
しかし、その目論見は妖精や神獣から力を奪い取ろうとする身内によって潰えた。
「そんなにまずいの?あの国」
「王族がどうとかはわからないけど、土地の悲惨さで言えばマーレを超えるみたい」
「そういえば、マーレはようやく雪がおさまって、少しずつ暖かくなってるんだっけ?」
マーレの名前が出たからだろう。ペーターは思い出したようにそう言った。
ハロルドに危害を加えたことによる神罰は命令した者たちが軒並み死罪となったことで収まりつつある。死罪とならなかった者たちも、ユースティアによる神罰を受け、無事には済んでいない。その罪に応じた罰を、天秤が与えている。
「ようやく罪が濯がれたってことかなぁ。でも、一気に雪が解けるとこっちも悲惨なことには変わりないから、まだわかんないよね」
ペーターの声は呑気そうに聞こえるけれど、目が微塵も笑っていない。
やはり許し難いことが多かったのだろう。
(……やっぱり、ペーターのこの目、苦手だなぁ)
ハイライトはなく、こちらを見ているのに何か別のものを見ている気がする虚な眼差しだ。
そんなことを思いながら、黙々と卵を焼くハロルドだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ペーターが一番許せないのは助けに行くこともできなかった無力な自分だったりする。
ただ、ハロルドは厄介ごとにペーターを巻き込みたくない(できるだけ平穏に生きてくれと思ってる)ので、それでいいと思ってる。
すれ違ってる。
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今回もRuki先生にハロルドたちを魅力的に描いていただいております。
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