2.水晶花と報酬
ハロルドが朝起きると、妖精たちがいつになく近くで寝ていた。最近は水晶花の中で寝ているのに珍しい。
彼女たちを起こさないように準備をしていると、後頭部に衝撃があった。後ろを振り返ると、三人が突撃してきたようだった。
「おはよう。ローズ、ネモフィラ、リリィ」
「ん、おはよ。ハル」
ネモフィラに続くように「おはよー!」とローズたちも返してくれる。
今日も元気だな、とハロルドが微笑ましく見ていると、扉が大きな音を立てて開いた。
「ハル!僕たちの水晶花が咲きましたよ!」
「ティターニア様から新しい水晶花の種ももらった」
少し成長した姿のルクスとルアがウキウキと突撃してきていた。
「時間がかかったわね」
「ハルから離れる機会も多かったし、仕方ないんじゃないのぉ?」
そんなことを言いながら、ローズとリリィはハロルドの両肩を陣取った。ハロルドの袖を引っ張るルクスたちを微笑ましげに見つめている。
「ハル、あとでボクたちもお話ある」
「時間、とってね?」
「ウチらのためなんだから、いいわよねぇ?」
最近では珍しい圧をかけられたハロルドは重要な話なのだろうと思って「いいよ」と頷いた。
とりあえずはルクスたちが先でもいいのか、ハロルドの背中を押している。
「こっちです!」
「はいはい」
苦笑しつつ温室に向かうと、立派な花が咲いていて、やはりとても美しい。全て色が違うのは、これには妖精たちの魔力が染み込んでいるからかもしれない。
「……相変わらず、見事なものだな」
宝石に負けぬほどの美しさだ。色とりどりな水晶が重なり合ってできたような花弁は、なるほど水晶花と呼ぶにふさわしく思える。
「ホントはこんなに集まることなんて稀なんだけどね」
「ハルってば、簡単に育てちゃうんだからぁ」
「俺たちからすれば、ありがたいことこの上ないが」
「ルア、一気に声が低くなったな……」
ルクスが中性的な声だからだろう。余計に低く感じる。ルア自身は不思議そうに「そうか?」と首を傾げるだけだ。まだあまり大きくなったという自覚がないのだろう。
「そういえば、ティターニア様はなんで追加で水晶花を?」
「持って帰って、他の妖精にあげるそうです。あ、ハルが欲しがっていたルナリリィの種ももらいましたよ」
「……え、すごく嬉しい」
ルナリリィは今年の豊穣祭で使おうと思っていた花であり、上級魔法薬の材料である。数も結構多く用意してもらっているようだ。
「ティターニア様は何がお好きかな?」
「甘いものとぎゅーにゅー」
ハロルドは、ネモフィラの眠そうな声に「ありがとう」と返すと彼女も「いいよー」と言いながらハロルドの頭の上に寝転がった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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