15.どこでも求められる物
ハロルドはジャンナガーデンから自宅に戻って、一息つく。
「手紙、書かないとな……」
それは元マーレ王国第二王子、現平民のリオ宛だった。元々、彼が看病している女性が海の妖精族の加護を得た人物であったということもあり、復活した際には連絡を、とお願いされていた。
それは、復活すれば眠り続ける女性が目覚めるのではないかという願いもあったのかもしれない。
それはそれとして、ちょっと疲れているハロルドは「その前に、俺もちょっとおやつにしようかな」と呟いて部屋を出ようとした。
「おやつ!?」
扉を閉めた。
「おい!ハロルド!!きーこーえーたーぞーーー!!おやつ!!」
扉の外で、スノウがきゃんきゃん叫んでいる。もう一度扉を開ければ、狼の姿だったはずなのに人型に変化していた。
「なんで一回閉めたんだよ!」
「あまりにもタイミングが良過ぎてびっくりした」
思わず扉を一度閉めてしまうくらいには驚いた。
「ふっふーん!おれの嗅覚はすごいんだ」
「嗅覚じゃなくって、食欲でしょ?」
「ポンコツわんこ」
「腹ペコわんこぉ」
ローズたちの言葉に「狼だっていってんだろ!」と反論しているのを見ていると、ルクスが「ポンコツと腹ペコはいいんですね……」と呟いた。ハロルドとルアも同じことを考えていたので静かに頷く。
その声は届いていないのか、聞かなかったことにされているのか、スノウはローズたちと大変子どもっぽい喧嘩をしている。
「ところで今日のおやつは何だ?」
「シフォンケーキの予定だったけど、あげちゃったし……ホットケーキでも焼こうかな」
騒ぐ妖精と神獣を置いて、ハロルドたちはさっさと台所へと足を進めた。
「ジルコニア公爵夫人からもらった高級蜂蜜をかけよう」
ハロルドは野菜や果物の代わりに、と色々貢がれていた。ルートヴィヒの姉であるクラリッサ・ジルコニアもハロルド産作物ファンの一人だ。
ハロルドとしては、単純にスキルの効果が乗ったものを渡すことができる相手が限られる中、おすそ分けをしているというだけなので、ちょっと「お返しが大きいんじゃないかな……」なんて思っているが、大地と豊穣の女神&太陽の神&夏の神の影響を受けた野菜なんて多くの人が欲しがるに決まっていた。
その価値に気が付かないのは本人くらいなものである。
何はともあれ、もらった高級食材は食べなくては無駄になるだけだ。美味しいものを食べられるのは単純に嬉しい。
なので、彼はホットケーキを焼いた上に贅沢に使用することを決めた。
なお、焼く時にちょうど買い出しから帰ってきた蜂蜜の値段を知るミハイルは「こんな贅沢があってもいいというのですか……!?」とキラキラした目をしていた。