12.気がかり
それでいいのか神獣。
ルーチェは名前を気に入ったらしく、るんるんだった。
さっきまで『あたくし』だった一人称も『ルゥ』に変わっている。それでいいのか神獣。
人間に酷い目に遭わされたというのにこれでいいのか神獣。
ブライトはそう思っているけれど見た目が幼女なだけに突っ込みにくい。
もう離れる気もなさそうな上に、おそらくどこかへやっても死ぬ気で帰ってきそうな気がしたため、ブライトはこのまま引き取ることにした。
神獣が女の子であり、スノウのように大きくなっていく可能性があると思ったブライトは厄介ごとにならないうちにさっさと婚約者にこの神獣のことを説明しておこうと思った。
兄が女遊びもするタイプのクズだったこともあって、誤解されないように報告は必須だ。
ブライトの婚約者であるエトナ・オパルス。
彼女はブライトの実兄、レスター・ベキリーの元婚約者だ。彼が色々とやらかしたこと、加えて実家もやらかしていたことなどから婚約はなくなり、婚約は母の実家であるガーネット伯爵家を継ぐこととなったブライトにスライドした。
「……というわけで、エトナ。これはフェニックスのルーチェ」
「コレって言うの、どうかと思うかしら!?」
婚約者がアポイントを取って会いに来るのは珍しいと了承したら、非常に雑な説明をされたエトナはちょっぴり頭を抱えたくなった。
「……つまり、神獣に懐かれてその契約者になった。それが女の子で今後誤解されるようなことが起こる可能性があるため、それを防ぐためにあらかじめわたくしに説明をしなくては、と思ってこちらに来た。そういう認識で構いませんこと?」
「そうだよ。何かあった時のローウェルさんも怖いしねぇ……。僕、あんまり敵に回したくない」
「ルゥがいて怖いことなんてあるかしら?」
「社会的に殺されて、ハロルドくんたちと会いづらくなることは怖いでしょ」
暴力での勝負なら、ブライトは絶対負けない自信がある。けれど、勉強とか根回しとか、単純に仕事関連でのことになると絶対に負ける自信があった。
ちょっと問題があるくらいであればハロルドたちのお説教を聞くことにはなっても、縁を切られることはないと言い切れる。が、世間がそれを許すかは別である。
「お兄様はまぁ……やる可能性を否定できないわね」
「でしょー?それに、僕も君とは仲良くやっていきたいと思っているし」
「家族になるのですから、いがみあっても仕方がないですしねぇ。そういえば、お兄様が最近忙しそうなのですけど、何かご存知でしょうか?」
「花香に留学していたことがあるってことで、色々と宰相閣下やルイに巻き込まれてるみたい」
エトナの兄であり、子爵位を継いだばかりのローウェル・オパルスは以前、魔道具の研究と称して花香に留学していた。それは寄親であったとある侯爵家の命もあったからだが、それももう彼に何か言えるだけの力をなくしているので今後行くことはないとローウェルは言っている。
「こちらよりも魔法が使える者の希少性が高く、その分別の技術が優れていると聞いておりますが、どのような国なのでしょうね」
「んー……。僕はハロルドくんが警戒してたり、隣接する国からは嫌われてたりとかであんまり良い印象はないな」
ルーチェは襲われた時の記憶がすっぽり消えていた。
なのでやはり証拠は少なく、決め手に欠ける。ただ、どうも彼らの様子が引っかかることは確かだった。