9.KY主従
「後天性魔力欠乏症だね。この国にアデニウム殿下がいて幸運だったかもしれないな。あの方はこの手の薬の第一人者だから」
ブライトに呼ばれてやってきたハロルドが、フェニックスの鑑定結果を伝える。
ぐったりとしているフェニックスを見てさすがに可哀想だと思ったハロルドはアデニウムへの手紙をアイマンに渡す。
「ブライトはケガとかしてない?」
「僕は平気。でも、変な魔道具?が設置されててこれも後で見て欲しいんだけど」
「わかったよ。……鑑定結果はこちらにも送った方がいいですか?」
「お願いね」
ハロルドの後ろでソワソワしているカトルの言葉はハートでも舞っていそうな声だった。そんな主人にケリーは白い目を向けている。
「僕には浮気だー!とかすーぐ言うくせに……」
「何を言っているの?おまえは私のものなのだから、おまえがよそに行こうとすれば浮気。私はおまえのものではないから芸術レベルの美を鑑賞する権利がある」
ハロルドはそんなフィアンマ主従の姿を溜息を吐きながら見てから、注意を集めるように手を叩いた。
「じゃあ、俺たちは王城へ向かいますので警備人員補充の希望があるだけでもお返事をいただければ」
「要らないわ。……証拠がしっかりと残っていないことが残念だけれど。やはりそのうちあの国は滅ぼすわ」
「滅ぼすんだ……」
「あの国は、精霊すら捕まえ、魔道武器の燃料とする国よ。不快なことにね」
カトルの声は刺々しい。
(それにしても、各方面に喧嘩を売っているようだけどどうして国が存続できているのかな)
ちなみに、ハロルドはこれを花香だけでなく、フィアンマ帝国のこともそう思っている。普通に戦争の火種すぎる。
フィアンマ帝国はまだ魔王を食い止めているという実態があるのでわからなくもないが。
「とはいえ、あの国の兵器には我々も手を焼くでしょ。時期尚早じゃないかな」
のんびりとそう告げたケリーは苛立ったカトルに思い切り足を踏まれて、ピィピィ泣き出した。三十代とは思えない幼い泣き方である。
「ねぇ!!陛下が酷い!!」
「いや、俺に縋り付かないでもらって」
ハロルドがペシンと軽くケリーの手を払うと、次は「息子も酷い!!」と言い出した。かなり鬱陶しい。ハロルドもドン引きしているのが良くわかる面倒そうな表情だ。
「……後で人をやりますね」
「わかったわ」
とはいえ、ハロルドも兵器とやらは知っておく必要があるだろう。
(それにしても……『妖精』だけじゃない可能性があるのか)
だとすれば、ブランたちにも注意をしておかなければならないだろう。そう考えて溜息を吐きたくなった。