8. どこかで蠢くもの3
「よし」
ケリーはパンパンと手を払うブライトを見ながら「よし、じゃないよ!?」と叫んだ。
自身の周囲にも、ブライトの周囲にも鋭利な刃物が散らばっており、少し涙目だ。結界術のスキルを持っているとはいえ、迫ってくる刃物が怖いことには変わりがない。
「これの破片は全部回収して……」
ブライトは破片を回収しつつ、窓を開けて「ハロルドくんたち呼んできてー!」と声をかけていた。外にいる暗部の人間は「了解ですー!」と返事する一方で、「逃げ足が早いな。追いつけただろうか」などと話していた。
「もう大丈夫!?刃物飛んで来ない!?」
「え。知らないけど」
「でも、君は結界解除してるじゃん!!」
「僕は攻撃に魔力を全力投入してなければ、刃物くらいで肌が傷ついたりしないから」
ブライトの言葉を聞きながら、ケリーは「あの子の友達こわ……僕絶対に喧嘩したくない」と呟いた。そのまま結界もキープである。
「それにしても……昨日まで元気だったヤツが、こんなに急激にグッタリするものですか?」
「それはわかんないけども……陛下にもお伝えしないと……」
まだ腰が抜けたままのケリーは「陛下が厳選した美形の世話役だったのになー」と唇を尖らせた。
「そういえば、なんでそっちの王様は美形を集めてるんですか?」
「カトル陛下はそこまで目立つほど美形集めに力を入れてないよ。もらえるものはもらってるけどね。先代はやっばい美形狂いだったし、美しいと評判の処女を集めて、殺したその血で風呂とか入ってたからキモかったけど」
思ったより嫌な話になって、ブライトはドン引きした。
そして、処女限定ならばハロルドの母親であった女は受け入れられなかっただろうなと納得もした。
「男は新品じゃなくても良かったみたいで助かったよ。女でなかったのも当時は幸いだったね。そうでないと、僕も危なかったかもしれないし」
ようやく恐怖も薄れてきたのか、のんびりとそう言うケリーは立ち上がった。
ゆっくりと伸びをすると「さて」と腕を組む。
「僕はあんまりこういうの興味ないんだけどさぁ……陛下はこういう国を馬鹿にする行為大嫌いなんだよね」
そして、低い声で「わかっているな?」と言うと、いくつかの気配が散っていった。
「この件については後で各国の責任者とも協議しなくては。自国の警備は自国で、という取り決めであったから警備の問題はうちのせいだ。でも……喧嘩を売られたなら高値で買わなくっちゃ」
ケリーの意外な行動にブライトは顔を引き攣らせる。
どうしてだろうか。彼もまた敵に回してはいけないタイプの人間である気がした。先ほどまで、明らかに暴力に震えていたというのに。
「証拠探しから、ですね」
「そうだね。あの国ほんとすっとぼけるの上手いから、僕嫌いなんだよね。陛下があそこを焦土にしたいっていう気持ちだけはわかるよ」
本当に忌々しげに、ケリーがそう言うと、フェニックスが頭を上げた。