7.どこかで蠢くもの2
ブライトも「まぁ、お膳立てされてるみたいだし、声も気になるからちょっとは向き合うかぁ……」なんて考えながら渋々フェニックスに会いに行くことにした。
度々脱走している様子が見られるとはいえ、少し気になることもある。
フィアンマ帝国に解放されている離宮に立ち寄ると、黒髪の男たちの姿があって、眉間に皺を寄せる。
(花香と連んでるの?そんな話は聞かなかったけど)
ハロルドが警戒をしている国だ。彼らが何をしているか、若干気にかかるところではある。来る際に伝令を出しているが、予定を変えて探りを入れてみるかと悩んでいた時だった。後ろから「あれ、君が鳥ちゃんと面会予定の子かな?」と声をかけられる。
そこにいたのは、なぜか派手にめかし込んでいるケリーだった。
「うわ……、じゃなくて。お世話になります」
「この格好に関しては浮気予防、だそうなので気にしないで。……僕はなんでこう、信頼されないかなぁ」
少し遠い目をしているが、それは彼は何度か適当に女を引っ掛けて逃げようとしたことがあるからである。それでも五体満足なのは、彼の顔が良かったことと、脱走騒ぎがなぜかカトルの敵を処分する機会になったせいである。「全くもって人生とはうまくいかないものだ」とケリーは思う。
「とりあえず、鳥ちゃんはこっちだよー」
そう言ってブライトを連れて行くケリーは、少し離れたところでまできてから「エーデルシュタインは花香の人たちに立ち入り許可とか出してる?」と聞いた。
「そちらが仲良しなんじゃなくて?」
「ウチがぁ?先代様ならまだしも、陛下はあの手の胡散臭い連中って嫌いだと思うけどなぁ。そっちじゃないなら一応、後で確認入れるかな」
心底不思議そうな顔をしたケリーを見ながら、ブライトも「両方探るか」と思いつつ案内を受ける。
部屋の前に案内されると、人が見当たらずケリーは眉根を寄せた。
「おかしいな。世話係が数名ついてて、一人は扉の外で見張ってるはずなんだけど」
ブライトはその言葉を聞いて、思い切り扉を蹴り開けた。
瞬間、目の前に広がったのは鮮烈なまでの濃い赤だった。
首を掻き切られて死んでいる世話役数名と、檻に設置された謎の装置。檻の中にいるフェニックスは苦しんでいる様子だ。
驚いて腰が抜けた様子のケリーを一瞥することもなく、ブライトは被害者の傷口を見る。
(この辺りで使われている刃物じゃなさそうだ)
「な、ななな、何があったの!?」
「それは僕が聞きたいことだけど——とりあえず、あれ。壊すね」
「へ……!?」
檻の前に立ち、思い切り拳をぶつけるがヒビが入る程度だった。そのことに不快そうに顔を歪める。
(あんま全力でやるとよくないと思ったけど、そうじゃないとぶっ壊せなさそう〜)
ブライトは「仕方ないなぁ」と念の為にハロルドやルートヴィヒに持たされていたお守りを手首につけて発動させた。結界のようなものが彼を包み「これでよし!」と助走距離を取った。
「それじゃ、頭伏せててね?」
フェニックスがその言葉で頭を完全に下げる。瞬間、轟音が響いた。