3.もう十分です
カトルたちの会話を聞かされていた暗部たちはものすごく面倒そうな顔をしていた。
「い、要らねぇー……。エーデルシュタイン王国の神獣はかわいいワンコ、スノウだけでいい……」
ノア・ダンビュライトの言葉に、彼の部下たちも一斉に頷いた。
第二王子ジョシュアの側近であり、代々エーデルシュタイン王国の暗部に身を置くダンビュライト家の者であるノア。彼は報告をしなければならないと脳内で算段をつけつつ溜息を吐いた。
ハロルド信奉系義姉を抱えていることもあり、本当に、本気で、彼の周囲への面倒は要らないと思っていた。
「スノウ様はちょっと腹ペコなだけで人に好意的ですし」
「スノウ様はちょっと食い意地が張っているだけでめちゃくちゃかわいいですし」
「今更他のはちょっと……」
部下たちの言葉を聞きながらノアは少し遠い目をした。
神獣の評価がそれでいいのか。そんな思いもあるけれど、リヴァイアサンを美味しそうに食べていた姿は記憶に新しく訂正ができない。
「神獣は人の都合でなんか生きてくれないのはわかってるけどさぁ」
実際、フェニックスだって弱っているために必死なのだろう。
元来、あの神獣はもっと華やかで美しいと聞く。声も、あんなものではなかったらしい。ノアも、声だけ聞いていれば鶏にしか聞こえないという現在の状況しか知らないので何とも言えないものではあるけれど。
「花香の連中も何か探しているみたいだしな」
「神子様に近づきたい思惑はあるかと」
「ハロルドくんは自分よりも『妖精』たちの前に彼らを出したくないみたいだ」
これは本人からも申し出があった話だ。
特に他国に住まう妖精たちも引き上げさせているというのだからその本気度が窺えるというものだ。
ハロルドは身内と呼べる存在を大切にしている。妖精を狙うだけでも、神罰が降りかねないと匂わせておく必要がありそうだった。
「ロナルド・アンモライトに近付くものもいますが……」
「いやぁ、彼も今は行かないでしょ。マラカイト家の庭は遊んでも遊び足りないくらい広いようだし、喉から手が出るくらい欲しいものを、用意している最中だしねぇ?」
聖剣はマリエ率いる真フォルツァート教にて打ち直している只中だ。やっとそれを打ち直すことのできる技術者が見つかったそれは彼が旅立つ前に渡される予定であることは説明している。それを本当に受け入れるかはまた別の話ではあるが。
「ノア坊ちゃん的には出ていって欲しいんじゃないですか?」
「俺っていうかは殿下方と兄上的に、かなぁ。関わる機会ないし」
ノアはジョシュアの側にいることが多いので、そこまでの影響は出ていない。しかし、人を派遣している彼の兄などは非常にロナルドを嫌っているようだった。
「まぁ、各方面に連絡と相談。場合によってはフィアンマ帝国との会談も入るかなぁ。各々、伝達よろしく」
「散!」と手を叩くと、一斉に人が減った。
そして、ノアもまた、ジョシュアとマリエに知らせるために移動を開始した。