33.妖精たちの水晶花
「この花はね、一回咲いたら普通には枯れないのよ!」
「だからボクたちはこの花を探すんだ」
「普通に人間の側に居るのも悪くはないけどぉ、ウチらを利用しようとするおバカな人間もいるもん」
ハロルドは細かく均等に切った薬草を、すり鉢でゴリゴリと削る。
その間に妖精たちはブライトと話をしていた。何があったのかを聞いたあと、水晶花と呼ばれるもののことを聞けば、とても興奮した様子で話してくれる。妖精たちは自分たちに悪意を持つものや、利用しようとするものにはこういった話をしないのだが、ある種の純粋さを持つブライトには口が滑らかになるのかペラペラと喋る。
「でも、花屋さんがいくら頑張っても咲かないって言ってたやつでしょ。そもそも、育てるの難しいよね」
「魔法植物なんてどれもこれも難しいものよ」
「そもそも、魔力が合わない花は咲かない」
「ハルはイイカンジのスキル持ってるから、だいたいのものは育てられるけどぉ」
それを聞きながら「スキルが悪さしてやがる」と思ったハロルドだが、この件に関しては元々持っていたスキルが原因であり、女神からもらったスキルは関係がないので完全に彼自身のせいである。まさか妖精にまで纏わり付かれることになるとは思っていなかった。
(でも、これが完全に育てば縁は切れるか)
そう思っているのはハロルドだけである。ハロルドの育てている花に執着心を燃やすお花大好き三妖精がそんなに簡単に出ていくはずがない。
庭先を見れば、まだハロルドの魔力が残る野菜たちがたわわに実っている。
トマト、ピーマン、茄子、きゅうり。
姿を隠した妖精たちはそれらに瞳を輝かせていた。普通のそれよりも妖精たちにとってはご馳走だ。
女神の加護のせいか、かつて一緒にいた少女よりもスキルが強いように感じて、彼女たちはハロルドに引っ付いて離れないつもりだった。
「あとは外に行くか」
火を使うし、加熱中は薬の匂いが部屋に充満する。基本的には外で煮ている。
専用の空鍋の中に擦った薬草、幾つかの瓶を入れて立ち上がった。
畑の側に、石で作った簡易の調理場があった。野菜を狙ってやってくる鳥を捌いたりしている。
たまに「何作ってんだー?」と問われて「肥料です」と平然と返している。用途自体は間違っていない。
焦げ付かないように丁寧に混ぜて、色が濃くなってきた瞬間に瓶の中身を小匙一杯ずつ加える。匂いが変わった瞬間に火から鍋を離す。
「ハロルドくん、なんか……作業細かくない?」
「こういうものだよ。あとは粗熱をとって、瓶に詰め替えて希釈したら終わり」
「薄めるの?」
「普通以上に魔力を含んだ土で健康に育ってる植物に、このまま撒くと栄養過多で枯れる」
なぜかやたらと土の魔力を吸い上げている様子の水晶花なので、今回撒く分くらいであれば問題はないが、それでも多すぎても良いことはない。何事もほどほどが一番である。
「植物育てるのも難しいね」
「……そうだね」
ニコッと笑うハロルドではあるが、実はなんとなくで水や肥料の塩梅がわかるのでそこまで大変ではない。緑の手というスキルは割と破格だった。
「明日はアーロンも誘って山にでも行く?」
「行く!」
もうこの話題はいいだろう、と新しい約束をすると、ブライトは嬉しそうに頷いた。
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