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32.ようやくの帰還




 アンリたちは正直なところ、もう少し滞在してほしい気持ちもあったが、予定通りにハロルドとアーロンは村へと帰還した。アンネリースは泣いて引き留めようとしたが、妖精たちが「早く行くわよ!」「花の栄養薬」「ウチらのお家〜」と急かすので無駄だった。



「これからも弟と仲良くしてやってほしい」



 別れ際にそう言って笑ったアンリに、ハロルドは「お兄ちゃんって感じだな」と妙な感心をしながら頷いた。家族仲が良いのはいいことだ。もう一人の友人が「ちょっと家族殺しちゃいそうでさ」なんて話しているのも相俟って、ほっこりとした気分になった。

 去っていくハロルドたちを見送りながらアンリは「加護持ちだとは思えない子だったな。ルイも元気だろうか」と異母弟のことを思い出しながら言うと、アンネリースがちょっぴり拗ねながら「だいぶ明るくなりましてよ!ジョシュアお兄様よりよほどお仕事してますわっ」と返した。その返答にアンリは妹にやんわりとお願いをした。



「アンネ、その話、じっくり中で聞いて良いかな。できれば君の母上と一緒に」



 その後すぐに、第二王子ジョシュアが聖女と名乗る腐れ聖職者が召喚したヤバい女に篭絡されて遊び呆けていることを知って、彼はどこか酷薄さを感じさせるような笑みを作った。



「なるほど、それは良くないね」



 アンリだって家族は大切だ。自分と同母の弟妹を大事にもしたし、母親が違っても弟妹は可愛い。王族であるから、通常の家庭とは違うところが多いけれど、それでもその責任を全うすることで民への責任を果たしている。

 弟は可愛いと思うけれど、王族としての責務を考えない者が王族として残るのはいかがなものか。

 神輿は軽い方がいいと願うものがいることも知っているが、軽くした神輿によって国が壊されることを視野に入れてはいないのだろうと思いながら、その目を細めた。




 ハロルドたちは「ここから10日もかかるの、しんどいな〜」と話していたけれど、妖精たちが「そこなら道が繋がっているわ!」「ハルは特別」「ウチらに感謝することぉ〜」なんて言って魔法陣を展開すると、二人でよく狩りをしていた辺りに転移していた。三人揃ってドヤ顔をしている妖精たちに、ハロルドとアーロンは揃って「ありがとう」と言うと、みんな嬉しそうにしていた。

 御者と護衛たちは目をまんまるにしていた。彼らはしばらく冒険者ギルドに紹介された宿に泊まり込むことになった。ハロルドのことを御しやすく、連れ去りたいと考えている権力者はいる。引き続き、守りは必要だという命令が出ている。


 そして、その冒険者ギルドの中から元気よく飛び出してきた少年がいた。

 彼はハロルドとアーロンを見て瞳を輝かせて「やっと来た!」と駆け寄った。



「ブライト、久しぶり」


「最安値の馬車で来た僕より遅いってどういうこと?」


「ルイの母ちゃんと妹が襲われてたから、兄ちゃんとこまで届けてきたんだよ」



 小さな村で“殿下”なんて口に出すものではない、とルートヴィヒのことを愛称で呼ぶ。“ルイ”という比較的平凡な名であれば平民にも存在するので、「お友達ができたんだな〜」程度の認識で済むというのもある種の知恵である。

 アーロンの説明に少しだけ考え込んでから、「まぁ、ここまでの道って結構物騒だったもんね」とブライトは苦笑した。



「ここからちょっと遠い西にある小さい村、あの勇者サマの故郷らしいけど、盗賊に襲われて廃村になりそうだって話だしね」


「マジで?ここらも気ぃつけねぇとな」


「……ペーターは大丈夫かな」



 かつて住んでいた村の現状を知って、ハロルドは眉間に皺を寄せた。

 何が起きたのかはわからないが、母親のせいで理不尽にあってきたとはいえ、普通の幼馴染として育ってきたペーターの不幸を望んではいなかった。兄の方はもう少し痛い目にあってもいいと思っているが。

 とはいえ、わざわざ危険なところに乗り込む気は無いし、嫌がらせをしてきた人間も多いのでそれ以外の人間に対しては興味も薄い。



「なんか、冒険者ギルドが横流ししてた薬草がなくなって、寄越せって怒鳴り込んできたんだって。結構な金額が動いてたっぽくて、今でもその薬草を探してそいつらがうろついてるんだ」


「こっわ。じいちゃんたちと一緒にさっさと移住してきててよかった」



 ここまで来る時に邪魔をされた、とブライトは唇を尖らせ、ハロルドはその話を聞いて祖父母の安全を思い鳥肌のたった腕をさすった。

 ここの冒険者ギルドには宿泊施設がついており、真面目に働くのであればその金額は大して負担になるようなものではなかったらしく、ブライトは元気に「課題もあともうちょっとだけ!」と力瘤を作ってみせた。全く力瘤はできていなかった。



「その腕でどうやってあの力が出るのか知りてぇわ。怖いな、スキル」


「あ、僕もそう思う〜」



 かつてほど自分の力にコンプレックスのないブライトは軽々とハロルドとアーロンの荷物を持って「運ぶね」と隣に並んだ。


 家に帰ると、ユージンたちは喜んで孫を迎え入れた。無事でよかった、と笑う姿は親よりも親らしい。

 さっき聞いた村の話をしようか、と少しだけ思ったけれどやめておいた。知っているかもしれないし、母親のことを心配もしていない薄情な自分のことを知られたくなかった。

 代わりに友人を紹介すると、喜んだ二人は泊まっていくといい、とブライトを歓迎した。ハロルドの部屋は入学の時にだいぶ整理をしたのでそれなりにスペースがある。アーロンが来ることもあったので簡易ベッドも置いていた。それを広げて寝床を作ると、「冒険者ギルドの方がまともなベッドだろうけど」と苦笑する。



「え?そんな変わらないよ。すごいね、このベッド畳めるんだ」


「うん、作った」


「作ったぁ!?」



 友人の多才さに驚いていると、妖精たちがポンポンとハロルドの後ろから出てくる。何かを急かす様子の彼女たちにブライトは混乱した。



「ハロルドくん、いっぱい説明して!!」



 ある意味当然のセリフだった。かもしれない。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

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