30.まだ遠き地にて
11章最終話
エーデルシュタイン王国より西の地。
古くは火の国と言われた土地にて美しい女が鏡を見つめていた。
肌はこの土地に多い褐色で、髪と瞳は炎のような赤。布面積の少ない衣装が艶やかでよく似合っている。
「ケリー、本当にお前の息子とやらはそんなに美しいの?」
「あー……あの容姿のまま育っていれば、神にも並ぶ美しさでしょうねー」
「なぜきちんと連れて出なかったの?」
「腐れビッ……妻の両親が囲い込んでおりましたもので」
金色の髪の男が女の後ろで問いに答える。年はそれなりだが、柔和で端正な顔をしている。顔立ちが美しいのは彼もそうだ。少し離れたところにいる従者も、彼女の周囲にいる者は全て美しいもので揃えられている。
人も、物も、何もかも。
彼女は美しくなければ許せなかった。
とはいえ、統治者である彼女は世界が美しいばかりでないことは知っている。
貧困もあれば、病気もあるし、犯罪だってある。それは統治者として適切に対策を取るが、自分を国に捧げるのだから、国も自分に愛を捧ぐべきだ。
そう、彼女の周囲にある美しきものは全て国から返ってきた愛なのだ。
──例えばそれに、奪ってきたものがあったとしても。
戦いの中で手に入れて捧げられたものであれば、それは全て彼女に対する愛なのだ。
「国を滅ぼすほどの神の愛を受けた、美しい子。欲しいわ」
「いやぁ、報告聞く感じじゃあ無理では?」
「そうよね、難しいわよね。お前、父親のくせに養育の責任も果たさず全部捨てて、挙句奴隷として売られてきたのだものね」
「ははは、本当に耳が痛い!」
部下と軽口を叩く女の目は、それでもとギラついている。
「私のものにならずとも、この国に来てくれるだけでもいいわ。あの子の欲しい、全てをあげる」
ケリーと呼ばれた男はそんな女に溜息を吐いた。
(陛下は言い始めたら聞かないんだよなー。息子は神に溺愛されてる上に敵対者ブッ殺す覚悟決めてるっていうし、僕にはなんともできないな、これ)
彼女の母に気に入られて後宮に入ったはいいものの、扱いは夫なんて言えない、人ですら微妙な立ち位置だ。ペット、が一番近いだろうか。
それが死んで、他の者と同じように釈放されるかと思えばこうやってその娘に振り回されている。
(僕って女運悪いのかな。まぁ、良くはないのはわかる。あの人を舐めた腐れビッチに引っかかる時点で。いやぁ、僕もクソだけど、結婚してる身で他の女とヤったりはしなかったよねー)
窓から空を見て「綺麗な青だなー」と現実逃避する。そして、コテンと首を傾けた。
(そういや、息子の名前はハロルドで合ってたっけ?ハルーって呼んでた記憶はあるんだけど)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
生きてた実父くん。
女運は悪いけど、悪運(?)は強い。
童顔。まだ20歳前後に見えるので「エルフの血でもひいているの?」とかドン引きで言われる。純粋な人間。
顔はいいけど自分勝手。
自分がクソだという自覚はまあまあある。あくまでまあまあ。
【お知らせ】
2024年12月25日に巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない2巻がオーバーラップノベルスさまより発売いたします。
今回もRuki先生に素晴らしいイラストをたくさん描いていただいたので、ご期待ください!!
新しいキャラも描いていただきました!
特典等詳細は著者活動報告にも書いておりますので、ぜひご確認ください!




