29.次の面倒事
ルートヴィヒに集められたハロルドたちはテーブルの上の菓子に舌鼓を打っていた。彼が用意したものだけあって、とても美味しい。
(やっぱり、プロが作るものって美味しいな)
自分で菓子作りをしても材料パワーのおかげで美味しくはなるが、それはそれ。やはり王城の料理人が丹精込めて作ったものが美味しくないわけがない。
茶葉だって、普段ハロルドが口にしているものより良いものだ。買える値段ではあるが、彼は基本的に平民の感覚だったりする。そのせいでお客様用に用意しているもの以外では良い茶葉を自宅に置いていない。
「それで、会議って言うけど何かあったのか?」
「ああ、だいぶ面倒なことがな」
アーロンの問いに、ルートヴィヒが頷いて答える。
若干嫌そうな顔をしているところに、本気で面倒だと思っていることが窺える。
「今年の春から、学園に留学生が来ることになった。それが……ラムル王国、フィアンマ帝国、花香の王族・皇族の連中でな」
「ラムル王国はアデニウム殿下が前に来てたね。他の場所の偉い人とは面識がないな」
「アデニウム殿下、個性的だったよな。あの国って他の王族もあんな感じなのか?」
「いや、あれだけはっちゃけているのはあの方だけです」
アーロンの言葉にアイマンがすかさず訂正を入れる。心なしか表情が硬いのはそれらの人物たちからハロルドを守る必要があると考えているからだろうか。
「フィアンマのヤツら、絶対ハロルドくんのこと、欲しがると思うんだよねぇ。まぁ、ハロルドくんはマーレ滅ぼしたから、直接あれこれ言って来ることはないと思うけどさー」
「なぜか私も危ないと言われているんだが……」
「いや、ルイは危ないでしょ。何言ってんの」
美形コレクターの女帝に目をつけられることがあれば厄介だ、という忠告も兼ねている。
「というか、婚約者がいる僕たちはともかく、アーロンくんもちょっぴりピンチだと思うから、ハロルドくんから離れないようにね?というか、本当なんでアーロンくんはそんなニョキニョキ身長伸びたの」
「死んだ親父も背が高かったらしいし、似たんじゃねぇか?つーか、俺は別に美形でもないし大丈夫だろ」
相変わらず、ハロルドが隣にいるせいで若干価値観がバグっていた。アーロンだってタイプの違うイケメンである。むしろ、他三人に比べて背が高く、低い声音は魅力的だ。暴力的でなく、どちらかといえば世話焼きで優しい性格も相俟ってガチ勢が多そうである。
「私も新しく婚約を結ぶことになったし、狙い所はアーロンだけだしな」
「え」
「私も複数の神から加護を得ているし、外に出すわけには行かなくなったんだよ。だから警戒したパトリシア様が縁談をまとめてくださった」
「ちなみにラピスラズリ侯爵令嬢だよ」
「あのハルの顔にクソ弱い人!?大丈夫なのか!?」
「あの人、ハロルドくんの顔面さえ見なければまだまともだから……それに、婚約者がいない、って意味で残っている高位貴族で爵位と能力が王子妃に釣り合う人って少ないんだよね」
肩を竦めてそう言うブライトに、ルートヴィヒも頷いた。
レイラ・ラピスラズリ侯爵令嬢は非常に個性的な令嬢である。推し活が趣味で、ハロルドのファンクラブの運営などを担っている。エリザベータにお目溢しされているのは彼女が別にハロルドの妻狙いではなかったからだろう。そもそも、ハロルドの顔を直視した瞬間に鼻血を出してぶっ倒れるご令嬢だ。さすがにハロルドの隣には立てないだろうと判断された。ハロルドが望めば別だが、ハーレムなど考えもしていない彼が望むはずもないのでエリザベータは「推し活くらいでしたら、まぁ」と渋々受け入れていた。
以前の彼女だったら脅しの一つもかけていたかもしれないが、ハロルドが彼女の監視を受け入れていることから、ある程度精神が安定しており、好かれている自覚も少しずつ芽生えてきたから若干心が広くなっていた。
「だから、まぁ気軽に突撃されるとしたらアーロンだろうな」
「僕と違って性格は花丸だし、家事はできるし、頭もいいし、将来有望なんだからマジで気をつけて」
「お前も別に性格悪くねぇだろ」
自分の言葉に、眉を顰めてそう返すアーロンに「僕を性格悪くないって言える度量の広さもあるんだよね」とブライトは溜息を吐いた。




