22.リリィの思案
ハロルドは今回、全てを周囲の人に任せようとしていた。自分が動くとどうしても事態が大きくなるし、あとはやはりハロルドがいなくてもまともな加護持ちやその周囲が守られる環境は必要だ。
それでも、ハロルドは自分が今までの神子や加護持ちと呼ばれる存在とは一線を画す存在であるという自覚が薄かった。今や近年ではいないかもしれないが、過去には自分くらいの存在くらい、何人かいただろうと思っていた。特別でない自分がやたら神より加護を受けているのだからそれ以上がいたっておかしくない。ハロルドは自己評価がそんなに高くなかった。それは、全てが自分だけの力でないことを知っているからかもしれない。
そんな考えを知ったら、「こんな数の神に加護をもらう人間が何人もいてたまるか!」とみんなが言うだろう。
神だけでなく、精霊や妖精たちにも気に入られている少年を誰が普通だと思うだろうか。
それに、妖精たちはハロルドに従うほど素直ではない。
自由気ままな性質を持つ彼らは、ただ好意で協力しているだけ。
「早く対処しないから、あんな顔するようにさせちゃったのよねぇ」
リリィは不服そうに髪を指でくるくるいじる。
彼女の本心としては、滅多にいないほど相性の良い魔力と優しさを持ったハロルドをわずかでも変えてしまう出来事は許し難い。
友が救われたのは良いことだ。
けれど、そのためにハロルドが非情になってはいけないと思う。なるならば、もっと苛烈に、無邪気に、後悔することなく、笑って罰せるくらいであればよかった。
だが、あれはダメだ。
(だって、ハルってば傷つくじゃない?)
根本的に、他者を害することを嫌っているのだ。
そんなハロルドが力を持って全てを征せるのだと、時に非情にだってなれるのだと、そう振る舞い続ければいつか歪みが出る。心を病む。
どんなハロルドとだって一緒にいるつもりではあるが、壊れないに越したことはない。
(マナは恋をして変わった。そんなあの子がイヤになって離れたけどぉ……今になってあの子みたいに離れ難い人間と出会っちゃうんだからウチも、あんまマナのこと言えないかもねぇ?)
かつての友人を思い出しながら、「まだあの子、生きてるのかしらぁ」なんて小さく呟く。
それでも、マナに着いていかなかったことを後悔したことがないのは、あのかつては祖国だった国の人間が、許せないからだ。
懐かしくは思うが、あの国に行くくらいならば切り捨てる方がずっとよかった。
──妖精殺しの、花の国に行くくらいであれば。
「ヤなこと思い出しちゃったぁ」
不機嫌そうな顔をして、窓の外に目を映す。
少しくらいなら八つ当たりをしてもいいかもしれない、と動く影を見ながら考え込む。
そして、いつものように小悪魔的な笑みを浮かべた。
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