20.沈めちゃえば
ただ盗賊退治かと思えば、それだけでもなかった、とアシェルによる報告が上がった。
アシェルの報告によると、過去のお家騒動も絡んでいるようだ。
「まぁ、あそこの現当主の従兄弟は素行が悪いので有名だったしねぇ」
トルマリン子爵が産まれたのは、前子爵がだいぶ年を重ねてからだった。子を持つことを諦めかけた頃にポロッと産まれたのが現当主だ。
しかし、だからこそその前に、後継にと育てられていた男がいた。
別に、甘やかしたわけではない。
変な思考を植え付けるようなこともなかった。
けれど、その男はトルマリン子爵家の名を使って、まあやらかしていた。
賭博に女遊び、暴力沙汰。様々やらかした結果、前子爵夫妻は男の矯正はできないだろうと察した。そんなところにひょっこり子ができた。
それをきっかけに、男は実家へと戻される。
「成績も悪かったし、もう継ぐ家もないそいつは、うん。案の定道を踏み外したっていうか」
「……裏社会に身を置いた、と?」
「そう。元々、自業自得なのに恨んでたらしいから、手引きをしたり乗っ取ろうとしても不思議ではないかな」
ハロルドは真顔で「碌でもないな」と呟いた。
「家を継ぐなんて面倒なだけなのにな」
「ボンクラとアイマンくんみたいな真面目ないい人は考えることが違うんだよ〜。娘さんらしき遺体が見つかったんだけど、本当にそれが令嬢なのかまだ判別つかないんだよねぇ。さすがに死体は身体回復薬でも回復させらんないし」
それでも、『怪しい』と感じるだけのものがあったのだろう。ハロルド個人としても、生き残りがいるのならばそれに越した事はない。
「嫡男も行方不明、ですか」
「うん。まぁ、令嬢が生きているならおそらく令息も無事だと思うけど……それは逆も一緒だからねぇ」
「子どもが酷い目に遭うの、本当に嫌だから無事でいて欲しい」
犯罪者が身内にいると本当に嫌なことしかないな、とハロルドは膝の上で手を組んだ。
「俺もさすがに、見知らぬ人を探す魔法とかは知らないしな」
「うーん……全員、水の中に沈めちゃえばいいの!」
水差しの中からセレナがひょっこりと顔を出した。まだ残っていたらしい。
「加減は苦手だけど、範囲指定内に水をぶち込むのなら得意なの!」
「君がやったら証拠も全部流れちゃうでしょう?」
「でも、面倒なの!人間の諍いは大体どっちか死ぬまで解決しないの。遺恨が残ってどうせ殺し合うのだから、遅いか早いかだけなの!」
「いやそれは過激過ぎない……?」
セレナの発言にちょっとびっくりする。彼女もそれなりに長い間、人間を見て来たのだろうが、ここまでの発言となるとだいぶやばいのばかりを相手してきたのでは、と察せられた。
「……俺個人としては証拠と保護すべき人が保護できた後だったら沈めていいのでは、と思うが」
「僕も、精霊がやったことなら『止められなくても仕方ないね』で終わるからある程度片付いたらそれでいいと思うけど」
いつもは頼りになる年上たちがストレスからだろうか。「いっそそれも有りでは?」な雰囲気になりつつあってハロルドは思わず窓の外に目を向けた。
空が、綺麗な青だった。
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ハロルド「おそら、きれい」
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