30.緑の少女と妖精
かつて、緑の手を持って国を救った少女のそばには四人の妖精がいたとされる。
彼女たちはとても仲が良く、共に各地を回り、食料問題を解決したとされる。その旅の途中、少女はとある国の貴族に見初められ、嫁入りした。
その際に、妖精も共に国から去った。
そう思われていたが。
「アタシたちにだって好き嫌いはあるわ」
「あの男、嫌い」
「ジニアは残ったけどぉ、ウチは植物に触れなくなったあの子に興味なぁ〜い」
ハロルドにスリスリと頬擦りをしながら、「アタシ、ハルについてっちゃお」「ボクも」「ウチもとぉぜんいっしょぉ〜」と言う妖精たちはそのように語った。その視線は彼女たちが水晶花と呼んだものが植っているプランターに向いている。アンリはそれを見ながら「宝石を強請る時の妹に似てる」と思った。
アンネリースと同い年の同母の妹、ドロレスはちょっとだけわがままな女の子だった。ドロレスも逃げてくるかと思っていたが、彼女は「わたくしほどの美しさなら勇者様を射止めても仕方ありませんわぁ!」と高笑いしていたらしい。すぐに想像がついた。
「あ、そうそう。この土地の魔力が枯れているから、いくら植物を植えても育たないわよ」
「大地に与えてもらってばかり。ここの人間、無能」
「あの子もそういうところあんまり意識しないでスキル使ってたし、仕方ないんじゃなぁい?」
妖精たちの言葉をアンリの侍従はメモに書き留める。
死んだ魚のような目をしている目の前の少年には悪いと思うけれど、この土地を甦らせる方法があるのならば、その方法を知りたいと願ってしまうのは仕方のない話である。
「それで妖精様方が頑張ってくださったおかげで後ろの花々が成長したのですか?」
そう問いかけたアンリに妖精たちはクスクスと笑って「そんなわけないじゃない」「お気に入りでもない、面倒」「ばっかじゃないのぉ?」なんて言い出した。
ハロルドが胃の辺りを摩り始めた。
「そういやハル、おまえ昨日庭に出てたよな」
「うん。前に試しに作った初級回復薬を撒いた」
「回復薬作る時に、魔力込めるわよね。そういうこと」
試しにやってみただけだった。自分で育てている植物にかけても悪影響はなかったし、ハロルドはそもそもここがあのバリスサイトだとはまだ気付いていない。
狩りや探索をするのであれば入念に確認をするけれど、馬車に乗って帰るだけ、とかだったので少し確認しただけだ。
だから「ちょっと具合悪そうなやつだし」と気軽に撒いた。
「なんと」
嬉しそうにペンを動かす侍従を見ながら、アーロンは「じゃあハルが帰っても大丈夫なんだな」と思いながらほっとした。
そろそろ家に帰りたい。
「うまくいくかは、運」
「でもウチ、ついてくことに決めちゃったから残れなぁい。ゴメンね」
ハロルドのポケットに入り込んだり、頭の上に座ったりと自由な妖精たちは釘を刺す。
理不尽とはいえ、曲がりなりにも神による罰だ。そう簡単に上手くはいかない。
ハロルドがいればスキル持ちであるが故に十中八九うまくいくだろう。けれど、彼女たちは面倒なので口を噤んだ。ハロルドたちが帰りたいと言っていたのもある。
かつて、緑の手を持つ少女と共に旅した妖精たちは、お気に入りの人間と共にいるのが好きだった。植物を愛していればなおよし。
そして、妖精たちは良かれと思って彼に祝福をこっそりとかけた。それによってハロルドの能力が引き上げられているが、それがどれほどのものか、彼はまだ知らない。
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