19.各々の優先度
ならばどうするか。
「領民たちが被害に遭うのは困るし、さっさと制圧しましょうか」
ハロルドがサラッと言った言葉にファビアンは眉根を寄せた。
動かせる人員などを確認している様子を見ていると、自分で突撃する気はなさそうなことには安心する。しかし、以前までのハロルドであればもう少し戸惑っていたように感じる。
「人はね、容赦なく返り討ちにしないと諦めない生き物だから……徹底的にね」
冷たさを滲ませる瞳を見て、どこか恐怖すら感じる。こんな冷たい表情をさせるようになったのは、例の神罰の一件からだろう。
子どもを子どものままにしてやれなかったことに歯痒さを感じる。されど、この冷徹さは今後の彼にとって必要なものではあるだろう。
「……そうですね。あなたの警護を薄くするわけにも参りませんし」
「いや、俺の周囲はアイマンさんと妖精たちがいればなんとかなるよ。エリザやアーロンたちだっている。もし襲ってきたとして、今度こそ犯人が消し炭になるだけだ」
今更、その他大勢の警護を信用できるか。そう言われたと捉えてしまったファビアンの眉間に深い皺が刻まれる。
顔を上げて、微妙な顔をしているファビアンに気がついたハロルドは苦笑した。ハロルド自身にはそこまでの考えはなかった。
「いや、警護担当のみんなを信用していないわけじゃないよ。今の状況と優先度の問題」
警護を信用していない、なんて考えればハロルドとルートヴィヒを守るために戦い、死んでいった聖騎士たちが浮かばれないだろう。
そう、これはハロルドにとっては自分が把握している戦力でできることを考えた結果である。
「まぁ、行かせる前にみんなを集めて強化魔法をかけるくらいはさせてもらうけど」
「……私個人としては、一番守る優先度が高い人物に自分は後回しにしろと言われることがまず承服しかねますが」
「後回しにはしていないよ。言ったでしょう?俺にはアイマンさん、エリザ、妖精たちがいるって。この距離なら呼べばセレナも来るしね」
「セレナを呼んだの〜?」
甘ったるい声が聞こえて、周囲を見回す。
すると、水差しの中から全身青緑の少女が現れた。わずかに魚の尾のようなものが見えることで人魚のような形態をしていることがわかる。ブランと同じように小さくなれるようで、水差しの中から手を振っている。
「ハロルド、ようやく来てくれたの!セレナ、いい子にして待っていたの!!」
「いい子は雨を降らしすぎて作物を根腐れさせません」
「軟弱な草が悪いの!」
反省なしである。
「やっぱり、コイツは一回焼き魚にした方がいいんじゃない?」
「頭よわよわ」
「ブランよりポンコツだし、めんどぉ」
妖精たちの言葉にセレナは「あいつら酷いの!」と訴えるが、ハロルドはそっと目を逸らした。
「この地に住まう者からはもっと辛辣な言葉が出るでしょうな」
「俺もそう思う」
次はうまくやる、の『次』がうまくいった試しがない。セレナは何もせず、いるだけでいいのに、ハロルドにいいところを見せたいと空回っていた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
セレナは相変わらず。
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