17.領主の異変
「そういえば、黒金さんは今回の問題について、何か知っておられる?」
エリザベータの問いに、黒金は少し不快そうな顔を出した。
「あの無作法者たちのお話ですわね?詳しくはわかりませんが、どうも、お隣の領主様がいきなり税率を引き上げられたとか、変な連中が入り込んでいるとか……何にしても、領民に害を及ぼしているのは確かですわ。我々も、以前より卸してもらっていた品を受け取ることができず困っておりますの」
その言葉に、織物が有名だということを思い出して苦い顔をした。そして、そこまでのことが起きていればやはり誰かしらが介入する必要があるだろう。すでに商隊が避ける状況というのも、治安の悪さを感じさせる。
そして、おそらく次はこの領地を狙っているのではないか。そう考えてハロルドは溜息を吐く。
(俺の方へ来るところを考えると、相手はあまり最近の事情に明るくない。ただ、栄えている『男爵家の領地』ということで同じように何かできると短絡的に考えている……のかな)
まだ尋問の報告を聞いていないから、これはあくまで仮定だ。しかし、そう離れてもいないだろう。
「ハル、やはりわたくしも見に行きましょうか?」
「侯爵令嬢が自分で行くんじゃありません。アシェルさんやファビアンさんが動いているから結果を待ってもいいでしょ?」
「……ハルが彼らを信用しているならば、わたくしもそれで構いませんが」
エリザベータはそう言って目線を下げる。
彼女は、あまり人を信用しない。
そもそも、監視に走るのも「寂しいから」などと言っているが、本質的にはハロルドの『周囲』を信用できないと感じていることが原因だろう。
(俺への信用が全くない、よりはマシなのかな。……何にしても、少しずつ変わってきていたのに、あの馬鹿たちのせいで悪化した)
許すまじ、ヴァイパー。
ハロルドは婚約者更生計画を邪魔してきた男を思い出して、イラッとした。しかし、今頃彼らは処刑されているはずなので嫌がらせ等できることはない。死後は神々がやられたことの報復をと言っていたので、酷い目にあうことだけは知っている。
「それに、エリィ。君には俺の隣に居てもらいたいんだ。……ダメ、かな?」
手を握って瞳を見つめる。
ポンと赤くなるエリザベータの顔。
「ダメでは、ありません」
ハロルドから視線を逸らし、戸惑うような表情をしている。そんなエリザベータを見下ろしながら、「可愛い人だな」とハロルドは微笑んだ。
ハロルドの笑みは周囲にも効果が抜群だった。メイドと黒金が連れていた商会員が数名、パタパタと倒れた。
「美人って怖いわぁ……」
「姉ちゃん、笑顔が武器になるってこういうこと?」
「もうあんたら、黙っとり」
狐姉弟はその光景に若干引いていた。
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アイマン「いつもこんなものだろう?」
せやな。




