29.妖精との出会い
血反吐を吐きそうな顔をしていたのは気になるが、滞在の許可は得られたためハロルドたちは二人で課題をしながら「王都に行く時の宿よりベッドとかふかふかだな」なんて話をした。
王族が暮らすにしては質素に見えるけれど、それでもそこにある品は最上級のものばかりである。もう一生こんなベッドは味わえないだろう、なんて思って思わず飛び乗ってしまったのは仕方がないことかもしれない。ハロルドも多少、外見に中身が引っ張られているところがあった。
ふと窓の外を見ると、痩せた植物があった。プランターごと手提げ袋に入れて持ち運んでいるハロルドの謎植物よりもその茎は細い。
気になって外に出ると、土も肥料を使われているし、触った感じも異常には思われないけれど、そこに当然感じられるはずの魔力がなかった。
(もしかして、この世界の植物って地中の魔力によって育ち方が変わるのか?)
少し考えた後、「このままだと枯れるだけだろうしな」とお手製回復薬を手に取って土に撒いた。この回復薬を作る際に、ハロルドの魔力を注ぎ込んでいる。自分が植物に試す時は希釈して使用しているけれど、この土にならば薄めないほうがいいだろうと頷く。
軽く土に触れて魔力が土にある程度染み込んだことを確認して、ハロルドは手を洗って部屋に戻った。
次の朝には変化が起こっていた。
窓から見た植物たちは、元気にピンと太陽に向かって葉を向けている。
「ここだけ元気ね!」
「花、育つ?」
「この子達の旬が過ぎれば終わりじゃなぁい?」
その中の一本を囲むように赤・青・黄色の羽の生えた小さな女の子がいた。見間違いかとパチパチと瞬きをするが、確かにそこに浮いている。
ハロルドの様子に気がついたアーロンがその目線の先を見ると、「妖精!?」と驚いたように口に出した。
「やっぱり、そう見えるよな」
「見える」
妖精は自分たちを見つめる視線に気付いた。
パァっと明るい顔で二人に近づいてくる。
「フォルテ様の気配がするわ!」
「でも弱い」
「神殿壊されてるものね。あは、ざぁこ、ざぁこ、ざこめがみぃ〜」
最後の個性が強い。
何かネットで見たことがあるような構文で頭が痛い。
「ねぇ、なんかいい匂いがするわ!」
「水晶花」
「うちらの棲家にしちゃお!」
まだ蕾もついていないハロルドのプランターに植えてある植物。それに目をつけると、嬉しそうに突いてハロルドに目を向けた。
「まだ咲いてないよ」
「でも、これからずっとここにいるんでしょ?」
「いや、俺たちは明日か明後日には出るぞ」
アーロンの言葉にガーン、と三人がショックを受けたようだった。可愛らしい姿をしているだけに少しだけ罪悪感を覚えるけれど、嘘を言うわけにもいかない。
「なんで?ボクたちが嫌い?」
「ウチら、お家もらえたら役に立つよ?」
「いや、俺たちは単純に余所者なんだよ」
苦笑しているところに、ノックが聞こえる。返事を返すと、どこか緊張したような声で「失礼致します」と侍女であろう女性が現れた。
そして、妖精を見て硬直した。
「よよよ、妖精様ァ!?殿下、殿下に報告を!!」
慌てた女性を見ながら三人はドヤ顔で腰に手を当てた。
「そう!アタシたちはすごいのよ!」
「えっへん」
「ウチらのこと、見直しちゃったぁ?」
見直すも何も、どんなことが起こっているのかよくわかっていない二人は混乱しただけだった。
すぐに駆けつけてきたアンリに「忙しい中すみません」とハロルドがぺこりと頭を下げる。「構わないよ」と微笑みを浮かべて顔を上げた彼は、妖精の後ろで青々と茂っている庭の草木を見て目をまんまるにした。
「何がどうなってるんだ!?」
何植えてもろくに育たない植物が青々と茂ってて、見たこともない妖精さんがいればそう言いたくもなる。
あと、妖精さんは個性が……