4.もうすぐ試験
冒険者協会から出ると、ペーターが「ああいうとこって息が詰まるな」と溜息を吐いた。ずっと黙っていると思ったら緊張していたらしい。
「アシェルさんは元気そうだったね」
「あの人も結構親切だよね」
自分が救出された時のことを思い出したのか、ペーターは苦笑する。
現在のアンバー男爵領はペーターがフォルツァート教のやらかし聖職者のせいで酷い目にあっていた土地だ。合わせて、家族を失った土地でもある。
ペーターは以前、嫌がらせによって両親と共に村を出た後、ハンベルジャイト伯爵が治めていた土地で罹った流行病によって両親を失っている。その後、引き取られた孤児院を経営していたのがフォルツァート教の神官たちだった。そこで受けた暴行によって舌、片耳の聴力を失っており、片足は動かない状態だった。今はハロルドの薬によって回復しているが、その効果はペーターにとって奇跡のようなものだった。
そんな状態だったので、ハロルドの領地は、彼にとってはあまり良い思い出がない土地だった。
ハロルドたちに助けられたから、今は五体満足で生活できている。
(助けてもらった時から、こっちに来るまでの間も声かけてくれたりしてたし)
一番に感謝しているのはハロルドだ。
でも、気にかけてくれた他の面々にだってやっぱり感謝の気持ちはある。アシェルはちょくちょく調子を見に来てくれたりしていたからペーターの中では「親切なお兄さん」である。
「まぁ、とりあえずは今年度の学園が終わってから……だね。ところでペーター」
「何?」
「もうすぐ今年度最後の試験だけど、対策は大丈夫?これで来年のクラスが決まるけど」
ハロルドの言葉に一瞬固まって、そっと目を逸らした。アイマンが苦笑している。
「まぁ、少しくらいは、やってる……」
体調を崩したりもしていたので、上のクラスに行けるという自信はなかった。ハロルドたちが一番上のクラスに在籍しているため、やらなくてはいけないのだろうとは思うものの、幼馴染が攫われていたのに勉強に集中できるわけもなく、彼もまた若干、勉強が遅れていた。
「別に一番上のクラスを目指す必要はないけど、できるだけ上位にいた方が楽だよ。周囲の治安が」
「実感がこもりすぎだろ」
「事実なので」
アイマンのツッコミに即座にそう返す程度には実感があった。
現在の2年生を見ても、下位クラスは「どうせ俺たちは勉強できないしー」みたいな雰囲気が出ている。平民を軽く見て嫌がらせをする人間もちらほらいて少しばかり治安が悪い。
「去年、勉強に必死な俺たちを笑っていたクラスメイトは、結局留年しそうになっているしね」
逆に言えば、ハロルドたちに文字を教わって、そこから勉強に追いついた努力家のクラスメイトは去年よりずっとイキイキとしている。
「一応、ヴィーちゃん先生のおかげで余裕はあるし、わからないことがあったらそばにいる人に教えてもらうといいよ。俺でも、アーロンでもいいし。アイマンさんやミハイルも教えてくれると思う」
「うん」
ペーターは「そういえば、家にいる人たちみんな勉強できるんだったな」と少し遠い目をした。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ゆーて、ペーターはハロルドに迷惑かけたくないので割と必死こいで勉強してる。ミハイルが結構親身になって教えたりもしてる。
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