28.過労系プリンス2
友人の腹違いのお兄さんが来ると聞いて、平民二人組は緊張していた。
友人(王子様)の兄なのだから当たり前のように王族だ。しかも、エヴァンジェリンの話では王太子である。
国によっては王族よりも優先される神からの加護持ちであるハロルドではあったが、その中身は平凡な一庶民である。元の世界でも、政治家などに会う機会なんて選挙期間に「よろしくお願いします!」と歩き回っている人たちと遭遇するくらいのものである。
「どこかで一泊できればそれで良いんだけど」
「そんな施設なさそうだったからな」
特に目印がなかった上に、元々この地にくる予定ではなかったため、この場所が例のバリスサイトであるだなんて考えていない。
加護なき土地であるが故に、そこに住む者は少なく、泊まる者などいない。この土地を大きく迂回して別の場所へと向かう人間の方が圧倒的に多かった。かつては栄えた宿屋も廃墟となって残るのみだ。
ハロルドとアーロンは「こんなヤバそうな土地に王太子が滞在して大丈夫なのか?」とそちらの方を心配している。
「それにしてもこの土地、妙に魔力が薄いな」
「うわ、まじだ。使いにくいっつーか、魔力の消費量が違う」
怪訝そうに周囲を見るハロルドだったが、離宮内に入る許可が得られたのでエヴァンジェリンたちと共に護衛に囲まれて入っていった。
部屋に案内されるが、そこは王族が滞在しているとは思えないほど質素だ。品の良い家具を置いてはいるけれど、あまりにも無駄がなさすぎる。
側近ともに、青年がやってきたが、ハロルドとアーロンはその顔を見て絶句した。
「お初にお目にかかります、女神フォルテ様のご寵愛深き御子様。私はアンリ・シャルル・エーデルシュタインにございます」
迷うことなく跪いた青年に顔を真っ青にする。小声で、「どうすれば良いんですか!?」と慌てたように問うハロルドに、エヴァンジェリンは「ハロルド様の御心のままをお伝えすればよろしいかと」と答えた。
「アンリ殿下。私はしがない平民にございます。たまたま、女神様の目に止まっただけの民に、そのようになさらないでください」
ガチ懇願であった。
キリキリと胃が痛むのを感じる。
顔を上げたアンリはハロルドの表情を視界に入れて、困惑の表情をした。本気で困っているのを感じた。
父王からの手紙で女神の加護持つ少年が比較的良い子であるということを知らされてはいたが、フォルツァートの加護を持つ少年少女があまりにも彼曰く“ゴミ”で信じきれなかった。
「言葉も、丁寧でなくて良いので……。むしろ身分の低い私に頭を下げさせて申し訳ございません」
「ああ、いや。すまない。あのゴ……失敬。他の神の加護持ちと同じ対応であったのだが」
アンリの言葉にハロルドは震えた。
ハロルドは加護なんてものを永遠に続くだなんて思っていなかった。若さが衰えていけばなくなるかもしれないし、自分が神から邪魔に思われれば消えるかもしれないものだ。
そんな曖昧なもので身分の高い人間をコケにして恨みを買うだなんて正気とは思えない。
そう思えているだけ彼はまだまともだった。
「エヴァンジェリン殿と我が妹を保護していただいたとのこと、感謝する」
「いえ、我々にとっても友人の妹ですので」
後ろでアーロンも頷いている。
ルートヴィヒはハロルドが女神の加護を受けていることはなんとなく聞いているけれど、「ハロルドはハロルドだしな」というだけですませている。そして、ハロルドにとってみればその反応が一番ありがたかった。特別扱いは得意ではないので。
目の下にくっきりと隈を作る王子様を見て、「苦労してんだなぁ」と微妙な顔をしたハロルドだけれど、毒を疑われたくはないのでそう簡単に栄養ドリンクの差し入れをするわけにもいかない。
あのとんでも幼馴染があんまり苦労かけてないと良い、と思いながら泊めてもらえるように頼んだ。
過労系王太子には断る選択肢は与えられていなかった。神様案件で滞在している場所に、神様案件の少年が来て、彼は彼ですごくストレスフルな訪問となった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます