26.逃避行プリンセス2
謎のダンスと共にニョッキリ生えてきた木はそんなに大きいものではなかったけれど、それでも修理分には十分だった。
生やした当の本人は「チッ、シケた大きさですわねっ!」なんて言っている。お兄ちゃんの方とは違ってガラが悪い。ハロルドとアーロンは「えー……」なんて思いながら彼女を見つめた。
「あ、切る前に枝を頂きますわね!そぉれ!!」
細めの枝を自らの手でばきりと折る姿を見たアーロンは「姫……?」と首を傾げていた。さっきまで怯えていた女の子とは様子が違う。どちらかというとその行動は故郷にいる彼の弟に近かった。
「申し訳ございません、愛し子様。その……アンネリースはお転婆で」
「いえ、元気で良いのではありませんか?」
元気いっぱいのお姫様を見ながらハロルドはにっこりとした顔で頷いた。逞しそうだ。
完全に近所の小さい子を見るおじちゃん目線である。友人の妹ということもあって、病弱よりは元気な方がいいだろうと思っている。
流石に修理はさせられない、と騎士たちも手伝おうとしたが、DIY技術がハロルドの方が高かった。
ハロルドたちの乗っていた馬車の御者や護衛も変装した騎士である。騎士という職業自体がここ数年、平民の合格者がいないため彼らは皆、貴族出身だった。貧乏な貴族ならまだしも、ある程度裕福な家庭の出身者が多いからか不得意だ。
結局のところ、一緒に馬車の確認をした騎士とハロルドが修理をするのが手っ取り早かった。
そして、アーロンは少し離れたところで火を起こして食事の準備を始めていた。少し前に立ち寄った町で食材も購入しているし、ハロルド作のバッタモン調味料もあるので、彼らは保存食ではなく割とまともな食事にありつけている。
「わたくしは何をすれば良いかしら!」
「座って待ってりゃいいと思いますよ」
スープの味見をしているアーロンを見ながら、騎士たちは切った木材を運ぶ。
平民二人組はゴーイングマイウェイだった。昼食ができたくらいのタイミングで「メシできたぞー」とハロルドたちを呼ぶ。
結局、火を囲んで昼食をとって、そのあとそこまでかからずに修理は終わった。とりあえずの補修のみであったから、という理由もあるだろう。
キラキラとした目でハロルドに話しかけるアンネリースは、一緒の馬車に乗りたいと言ったけれど、許可は得られなかった。
「素人修理だから、底抜けたらヤバいし木材余分に持っときたいな」
彼女たちを送り届けたら、そのまま家に戻るつもりなのでそれまで保てばいい、と言いながら彼らは馬車に乗り込んだ。
エヴァンジェリンも騎士たちも彼らの行動に「本当に慈悲深く、立派な方だ」と感動した。本人たちが「友達の家族だしな〜。親切にしときたいよな〜」くらいの気持ちだったとしても、今までの賢者やら勇者が自己中心的な性格だったために感動もひとしおである。
「お姫様のイメージ変わるよな」
「友達の妹が体調崩して死にそうとかより全然気が楽」
「悪かったって」
ある吹雪の夜を思い出した二人は、そのまま故郷に思いを馳せて家族の話を始めた。
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