1.攫われた神子たち
眠るローズを労るように頭を撫でる。ハロルドは馬車の景色がどんどん雪景色に変わっていくのを見ながら、黄金の瞳を細めた。
その隣にはルートヴィヒが座っている。友人を案じるように見つめるその瞳には、心配と同時に激しい怒りが見えた。
二人が攫われてから数日が経つ。
初めは魔力を吸い取り、無力化するような魔導具を付けられた二人だが、無言でそれ同士をぶつけ合わせて破壊するのを見たマーレ王国の者たちは苦い顔をしてつけるのを諦めた。その流れで押さえつけて、女を与え、子種を仕込むつもりだったが、この調子では不興を買うだけで碌なことにならないだろう。
「全員の首を刈り取って晒して行ってもいいんじゃないか?」
「解呪方法がはっきりしていないからね。ローズを回復させるためにもまだできないよ。向こうもそれを解決するまで俺に無茶な要求をできない。そういう契約だ」
小声で問いかけるブランにハロルドも人の耳に届くかどうかという声量で応えた。風の精霊である彼女にはそんなわずかな声量でもきちんと伝わることを理解している。
魔法契約書に書いてあることは基本的に遵守しなければいけない。そうでなければ互いに罰を受ける。強制力が高い代物である故にその対価も相応だ。
だから、本来なら少なくともマーレ王国に着くまでは何も心配する必要がないはずだった。
だが、彼らを縛り付けた男、ヴァイパー・ハイドラは自分以外であればハロルドたちや聖堂にいた者たちに手を出しても構わないと部下に彼らを害することを命じようとした。
——だからその腕を切り落としてやったのだ。
ハロルドはヴァイパーの腕を切り落とし、呆然とする彼の部下から剣を奪うと、自らの首に当てた。
「俺が死んでいつまでも大地の恵みが戻らない国を治めるか、早く彼女の呪いを解いて俺の助力を得るか。……選ぶといい」
淡々とした言葉でそう告げたハロルドは、答えを渋る彼を見て迷わず剣を自らに突き立てようとした。それを見て慌ててエーデルシュタインから去る選択をした。
まだローズの呪いを解かないのは、彼女の力が脅威であると考えているからだろう。助力を得るだけならば、国に連れ帰ってからで十分だと考えているのだ。
「ハル、助けは必ず来る」
「それは信頼しているよ。けど……」
けれど、タダで済ませる気はなかった。
「ブラン、マーレ王国に着いたらお願いがあるんだ」
「わかった。我はハロルドが好きだからな、手伝いくらいいつでもしてやる」
チャンスを待っているのはヴァイパーだけではない。
それこそ、神の力を借りてでも。そう覚悟を決めていた。
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