表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/494

25.逃避行プリンセス1




 名乗られた二人は、「息子さんにお世話になってます」という気持ちも込めて馬車から降りようとしたけれど、護衛に止められた。

 仕方なく馬車の中から自己紹介をして、事情を聞く。


 その結果、割と胸糞悪いことが発覚した。

 王宮に我が物顔で居座る聖女とそんな彼女にデレデレな第二王子の態度があんまりなので少し注意をしたら、第二王女は見事に聖女に嫌われた。聖女が「第二王女が気に食わない」と言ったせいで暗殺者に狙われることになったのだ。気に食わない、だけで死ねばいいのにだなんてことは言っていないが、その意を汲んだという形で動く者もいた。

 勇者にその容貌を気に入られてしまったこともあって、その身を望まれないうちに消してしまおうという動きもある。

 傍若無人な男の血を王家に入れたくないと思う人間はそれなりに多い。手の付けられないような子が生まれても困る。

 そんな事故のような出来事から彼女たちは王城を逃げ出してきた。

 そう言った事情から彼女たちはただいま王太子が滞在している離宮へと避難している最中である。なお、王太子は仕事が多すぎて婚約者に逃げられたために第二王子が調子に乗っていたりする。



「今、無性に鍬を持って大地と向き合いたい気分」



 ハロルドは特に権力やらお姫様に興味がなかった。できることならば、ゆっくりのんびりと田舎の家で縁側に座って茶でもしばいていたい。そもそも、自分のそんな性格もあって、チートを望まず穏やかに生きたいと願ったのだ。親とフォルツァート絡みであまり叶っていないけれど。

 女神も尊大な物言いで隠しているつもりだが、基本的に信仰が少ないが故に力が足りずフォルツァートほど人間に関われない。

 どこか別の場所を見ているように笑うハロルドを「しっかりしろ」とアーロンはため息混じりに頭を一発叩いた。



「とりあえず、安全なところまで送り届けたいんですけど、料金に変更とかありますか?」


「いえ、それは経費で落とせるので平気ですが……むしろ、愛し子様たちが大丈夫ですか?」


「ハロルドでいいです。友人のお母様と妹さんを放置する方が精神的にキツイです」


「それな。ルートヴィヒ殿下めちゃくちゃいい人だもんな」



 真っ当に友情を築いているつもりの二人は、そのお母さんと妹が酷い目に遭うかもしれない状況を憂いて頷いた。ルートヴィヒの人徳である。

 孤立していた王子様は、馬鹿にしてくる貴族を見限ることでゆっくりと成長していた。自分と同じく頑張る人というのは好感を得るものなのか、Fクラスの平民たちには結構好かれている。



「でも、男と一緒はまずいよな」


「俺らまだガキのつもりだけどそれでもダメなのか?」


「俺たちと同じ年齢で、俺の母親と、俺の自宅で、お楽しみしていたやつがいるのでダメだと思う」



 最悪なセリフと仄暗い表情でお出しされた情報に、周囲の時が止まった。

 ルートヴィヒの宮廷ジョークと一緒に聞いたことがあるアーロンは「じゃあダメか」と言ってポンと手を叩いた。



「馬のケガ治せれば、ちょっと修理するくらいで馬車使えね?」


「見てみないとわからないな」



 ちょうど、周囲に危険な人間がいないという報告が来たので二人はドアを開けた。



「あ、これ馬に飲ませてください」



 教科書に載っていた初級回復薬を渡すと、御者をやっていた男は護衛二人組と目線を交わして馬の方へと駆けていく。

 ぐるりとエヴァンジェリンたちの乗っていた馬車を見て回って、壊れた部分を確認すると、ハロルドは「うん」と頷いた。



「壊れた扉部分と足場の一部を補修すれば、なんとか乗れそうじゃない?俺たちの馬車にエヴァンジェリン様たちを乗せて、俺たちがこちらに乗ればなんとかなるかな」


「馬も交換した方がいいかもしれませんね。こっちの馬の脚で引かれると壊れる」



 いつの間にかエヴァンジェリンたちの騎士の一人も混じっていた。貴族の出とはいえ、その騎士の家はそこまで裕福ではない男爵家。しかも四男。自宅の修復などで駆り出されることもそれなりにあるので「確かに姫様とかが乗るんじゃなけりゃ、使えるかもな」と少年二人と一緒に見て回った。


 仮にも加護持ちの御方を、とか焦っている人間たちを尻目に、第二王女アンネリース・アビゲイル・エーデルシュタインはキラキラと輝く目で少年たちを見ていた。



「なら、わたくしは木を調達できますわっ!!」



 それは助かるとハロルドと騎士が振り返ると枝を一本持ったアンネリースが地面にぐさっとそれを挿した。



「大きくなぁれ!大きくなぁれ!!」



 枝に魔力を注ぐ小さなお姫様の姿が某隣の動物オバケ作品に出てくる女の子のようだったのでハロルドは少しだけほんわかした気持ちになった。

 その時だけ、ちょっと魔法の存在を忘れていたため、次の瞬間には唖然とすることになる。

ちなみにこの報告を受けて「誰だよ、んなことするやつ」と思ったら過労系王子様が調べたら犯人勇者で「アイツ◯◯じゃねぇか!!」って王様と一緒に頭抱える羽目になる。


アンネリースは黙ってれば清楚系、普段は猫被り、猫が外れればお転婆系。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ