23.帰郷の予定
「率直に言うと、兄上が爆発しそう」
ブライトの言葉に三者三様に何とも言えない顔をした。
ハロルドは「襲い掛かられたら、誤って殺しちゃいそうだもんなぁ」とブライトの一番言いたいところと同じことを考えていたし、アーロンは「いつも通りじゃね?」と思っていたし、ルートヴィヒは「伯爵家を継ぐ人間が、弟に“理性も何もない判断をする”と断じられているのは良くないな」と呆れていた。
「僕もね、別に殺したいわけじゃないから」
ただでさえ化け物扱いをされているのだ。兄と衝突して殺してしまうことがあれば、自分は処刑に追い込まれる可能性もある。自分が出て行った後に彼らがどうなろうが知った話ではないが、巻き込まれるとなれば話は変わってくる。
領地から届く嘆願の手紙すら読まない者たちだ。そのうち落ちぶれるに決まっている。そんな彼らのために自分の人生設計を崩されたくはない。犯罪者にされたくはなかった。
「僕は、勝手に家を出て、自力で、辿り着く。保護して」
重要なことだ、と細かく区切りながら話すブライトの目は真剣だ。
暗殺者を返り討ちにするのは「仕方がない」で済んでも身内殺しはそうはいかないとブライトも必死である。
「俺たちは今の話は聞かなかった」
少しだけ考え込んでいたハロルドは顔を上げてそう言うと、ブライトが絶望感に満ちた表情になる。久しぶりに泣きそうだ。
「でも、帰った後に偶然友人が遭難しているところを見れば助けざるを得ない」
その言葉にルートヴィヒも「そうだな、それは仕方がないな」と頷いた。
ハロルドだって、伯爵家子息を誘拐した、だなんて言われたくなかった。なので彼も予防線を張っておく必要があった。
「私も偶然遭難できれば面白そうなのだが、そのような身の上ではないからな」
ルートヴィヒは第三王子である。最近では側付きが変わったこともあってか、だいぶ明るくなった。それに加えて、第二王子が聖女にのめり込んでいる影響からか、教師まで変わっている。
今では、初めから相談しておくべきだったか、と考える余裕があった。
「そういえば、ハルが追加料金が必要で結構値段が上がるのに馬車のグレード上げたんだよな。どう思う?」
「ハロルドくんが乗るなら正解だと思う」
「ハロルドがどこぞの愚か者に囲われるよりは、よいのではないか?」
顔が良いだけで結構な人数に目をつけられているのを知っているのでブライトとルートヴィヒは迷いなくそう告げた。
アーロンは「マジ?」と呟くと、「世の中にはお前が思うよりも、一時の欲で馬鹿なことをしでかす人間がいるのだよ」とルートヴィヒがしみじみと答えた。
アーロンもある程度は知っているが、王家もドン引きするレベルで二人の部屋に侵入しようとする者は多かった。それこそ老若男女問わず。
中性的な美貌を持つ少年は、ある種の人間を狂わせた。魅了でも持っているのではないかと勘繰るレベルである。実際にはそんなスキルは持っていない。けれど、幼い時から周囲を警戒して生きなければいけなかったハロルドは、この点については王家の護衛がついていることに関して非常に感謝している。
「トチ狂った人間は何やらかすか想像つかないから念を入れただけだよ」
笑顔のハロルドは過去の経験上、そう言って微笑む。
そして、ハロルドの「報告・連絡・相談」は王家に思ってもみない効果をもたらして感謝もされている。何か褒美を、と打診された際に女神の信仰を増やしたいと言うと、褒美にと用意された予算を使って神殿が改築されることとなった。ウィリアムが張り切っている。
目立ちたくはないが、女神の信仰が増えて力が増せばそれだけハロルドの身は守られる。
昨今の神官よりもよほど敬虔な信徒らしい言葉に評判も悪くない。代わりにフォルツァートが選んだ勇者と聖女が暴れているので妙なところでフォルテへと信仰が流れていたりもするがそれは彼の知らない話である。
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