20.神と信仰
育てた花を切って花瓶に生ける。それを神棚の前に供えて祈りを捧げる。その光景は一枚の絵のようだ。
女神像なども作るべきなのかもしれないが、DIY的なものは少し齧ったことがあっても、彫刻などはやったことがない。
たまに女神は夢の中で干渉してくるけれど、「信仰が足りない!!」と嘆いている。ハロルドは理由や効力を知らないが、信仰の有無は神にとって大きな問題であるらしい。
窓から吹き込む風は生暖かく、夏の訪れを感じさせる。
(長期休暇明けには家が用意できるらしいけど、神棚どうしようかな)
ハロルドが多少器用であるとはいっても、新しく作るのは面倒だ。
誰もいないことを確認して一つ頷き、窓とカーテンを閉めた。扉の鍵はハロルドの身の上では防犯上必須なので必ず施錠している。
花を避けて神棚に手を翳す。淡い光が神棚を包むと彼の手に銀の鍵が現れた。
「収納」
呟くと、神棚を包む淡い光が霧散して同時にそれも消える。
終わると同時にカーテンと窓を開けた。
ハロルドの異空間収納魔法は鍵の形をとっている。倉庫をそれで開け閉めしているイメージが彼にとって一番使いやすかった。
──魔法の力とは即ち「魔力量」と「イメージ力」である。
それがハロルドの結論だった。
冒険者ギルドでの説明は何とも科学的であったけれど、それはその人間がイメージしやすかった、またはその方が使う魔力量が減るということを知っていたからだろう。
全てを己の魔力で補う必要がある“魔力量”と“イメージ力”のみでの魔法に比べて、そこにこの世界の環境を利用することでその分の魔力を節約することができる。長期戦などでは、その辺りも鍵になってきそうだ。
(ま、俺は兵士とかになるつもりはないし、王様達もそういうの困るだろうけど)
いくら女神の力が主神である男神より弱いとはいっても、加護を得ているものが野垂れ死にでもすれば、神はすごく怒る。とても怒る。
それでも、女神曰くフォルツァートが原因でハロルドが死んでも報復は難しいらしい。それだけ信仰の差が大きい。
元々は対の神として生まれた二柱の神は、人間が増えるにつれて生まれた争いの結果、「創世の神は男神のみとした方が威厳が生まれる」という当時の支配者の謎の理屈でその立ち位置を落とされた。
そこからジワジワと差が生まれて、今ではフォルツァートに対抗できるほどの力を持つ神は居なくなった。だからこそあの女神は信仰を少なくとも増やしてくれているハロルドが気に入っている部分もある。
「ハル、時間だぞ」
「わかった」
アーロンに呼ばれたハロルドは鞄を持って部屋を出た。
「俺らの名前じゃ実技用の練習室とかなかなか予約できねぇのに殿下の名前だと一発なのすげぇよな」
「仕方ないと言えば仕方ないけどね。俺たちに配慮してもリターンがない」
肩を竦めてそう言うと「教育機関なのに」とアーロンは唇を尖らせた。
将来的に国の中枢に関わるか否かということや爵位というのは教育者になった彼らにとっても重要らしい。研究費用や寄付などにも関わってくるため、仕方のない話ではある。
幸運と言って良いのか、彼らには権力者の友人ができた。そのことによって平民であることによる不利益はなくなっている。多少、何かしらの妬みは受けるけれど、それはルートヴィヒがキレるので何か言われることも少ない。
「自分たちが私を“使えない者”として扱ったくせに、ハロルドたちと友人になったから自分達にも簡単に近づける、王族と仲良くなれるなどと思われるのは愉快とは言えないな」
最近、仕事をサボりがちな第二王子のせいで公務が増え、その存在が目立ち始めたルートヴィヒは割と目をつけられている。婚約者を同行せずに茶会やパーティーなどに出席するため付け入る隙があると見られていた。
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