6.幸運の女神の不運
アイマンが国に戻らないと言い切った理由も考えると、そのうちラムル王国内で侯爵家が排斥される動きになっても仕方がないだろう。
少なくとも次期国王であるジャファルはそのつもりであることは想像がつく。
面倒事だと分かっていても、ハロルドについてくれたアイマンが「これはまずい」と感じていたのだ。おそらく、近寄ると碌なことにならないタイプの人間だ。
(将来的に会うことがないことを祈ろう)
そんなことを考えつつも、同時に「まぁ、アイマンさんが会わせまいとするでしょ」と思いながら、枕元のランプの火を消した。妖精たちが「おやすみ〜」と寝床に帰っていく。翅が月明かりで淡く輝いて美しい。
ゆっくりと眠りにつこうとした。
そのはずだった。
瞳を閉じた瞬間、意識を引っ張られた。
地に足がついた感覚がして目を開く。
「ここは……フォルテ様の……?」
「はぁい、そうよ〜」
ぱっと目の前に現れたのは長く、真っ赤な髪の女性だった。年齢はだいたい十代後半くらいだろうか。青い瞳の中に星のような模様が見える。
「私は、晴にそれほど近づいてもいいとは言わなかったはずだが?」
その女性の白い服の腰あたりを掴んで引き剥がしたのはフォルテだった。不服そうな女性に「その首飾りを掴んでも良かったのだが?」と低い声でフォルテが言うと、彼女は「ごめんなさぁい」と一歩下がった。
「こんばんは、ハルちゃん。アタシはディーナ。愛の女神」
「はぁ……愛……」
それが自分に何の用があるのだと怪訝に思う。フォルテもいるので加護だの何だのという話にもならないだろう、とは思うけれど、何だか少し嫌な予感がする。
「そう!今回は〜、ハルちゃんにお願いがあって、フォルテ様にお願いしました!」
ディーナの言葉に、視線をフォルテに移した。「言っておくが、受け入れる必要はないぞ」と釘をさしてきたあたり厄介ごとだろう。
「そんなこと、言わないで〜!アタシにとっては大事件なのですからぁ!!」
ぷくっと頰を膨らませて、両手を握る。怒っているぞ〜、というポーズをしているけれどまるで怖くない。話の続きを促されると、ディーナはようやく話を始めた。
「アタシの可愛い娘のうさちゃんがぁ」
(ペット?)
「あ、くろうさちゃんな女の子なんだけどぉ……耳飾りにダイスが付いてて、黒髪のツインテール。可愛いふりっふりの服を着せているのだけどぉ……」
その説明でようやく「ミハイルのストーカーか」と思い至った。
幸運の女神トゥーナ。
ミハイルの後ろをうろちょろしている愛らしい少女型の女神である。
「あの子、好きな男の子に加護も与えず、その不運を肩代わりしたものだから大きな不運に見舞われてしまってぇ……ダンジョン誕生に巻き込まれてその中に閉じ込められちゃったのぉ!」
曰く、トゥーナは加護をいつ与えるか、タイミングを見計らっていた。だが、あまり目立ちたがっていないし、そばにいる加護持ちのハロルドがどう見ても幸運でない。「加護を与えるのは、ミハイルのためになるかしら?」と悩んだ結果タイミングを逃した。
けれど、ミハイルは勘がいいおかげで生き延びてはいるが、それにも限界があって謀略に巻き込まれそうになっていた。その『不運』をトゥーナは肩代わりした。大好きなミハイルを不運にしたくなかったのだ。
結果、その『不運』はトゥーナの身を襲う。
「かわいそうに、あの子ぉ……アタシに似ちゃって戦闘力皆無なのよぉ……。ダーリンに似ればちょっとくらい戦えたかもしんないのにねぇ」
「戦闘力がない子を下界に降ろすんじゃない」
フォルテの突っ込みに「だってぇ……」と唇を尖らせた。
「天界に閉じ込めて人の営みを知らないままだとぉ、人間を不幸にする加護を与えちゃいそうじゃない?」
めちゃくちゃマトモな理由だった。
そして、ハロルドは死んだ目になった。
「最近、ミハイルの調子が悪そうなの……これかぁ……」
文字通り、幸運の女神がついていないと危ないタイプの不運なのだろう。実際、直感のスキルがなければ何度か死んでそうだな、なんて思うこともあった。
「質問なのですが、加護がついた対象であれば不運の肩代わりはダンジョンに飲み込まれたりといったものにはならないのですか?」
「そもそも、そばに居なくても幸運の加護が常時発動するから、肩代わりするような出来事が起きないと思うわぁ」
このままだとそのうちミハイルが死にそうであり、ダンジョン誕生が不運の肩代わりだとすれば、その誕生理由はミハイルだ。
溜息を吐いてから、「踏破すれば解決します?」と彼は渋々口に出した。
愛の女神 ディーナちゃん
フォルツァートの三人目の妻。可愛い系の巨乳なお姉ちゃん。これでみなさん、フォルツァートの趣味がお分かりですね……?
基本的には運命の赤い糸を紡いだりしてる。
娘が一人。それが幸運の女神ちゃん。
実は美の女神は彼女の妹である。




